家ナビ編集部の事務所訪問その3
(株)後田工務所 後田哲男さん

昨今、国を挙げて住宅の「グリーン化」が推進されるなど、住まいの環境負荷を減らす取り組みが増えてきましたが、一貫して住宅の機能に着目し、環境にも配慮した高機能の家づくりを進めてきたのが、いわき市小名浜に事務所を構える後田工務所。住宅部門の担当者である後田哲男さんに、家づくりについてじっくりをお話を伺ってきました。後田さんの考える未来の家のカタチとは?


―後田さんの家は、これまで何度もいわき家ナビで紹介させて頂きましたが、どの家も一貫して機能性を高めた住まいになっていますね。家づくりにあたって特に大事にされている考えやコンセプトについて教えて下さい。

学生時代からモダニズム建築の影響を受けてきたこともあって、「住宅は優れた機能を持っているべきだ」という考えが根底にはあります。モダニズム建築の特徴は、過度の装飾を廃し、建築の機能性を追求した点にあります。「機能主義」と言っていいかもしれません。ですからわたし自身、住宅に合理性や機能性を求めてしまうところがあるんです。

しかし一方で、どれだけ高機能だとしても、どこか懐かしさのあるような、愛着のあるデザインになっていなければ、長く大切に使ってもらえません。やはり人間ですから、数字に表せない居心地の良さみたいなものを皆さんしっかりと感じるんですね。その意味で、機能性とデザインの両方を見ながら家をつくるということを大切にしたいな、とは思っています。

それから、家を身軽するということ。機能が備わっていたとしても、家じゅうに配管や配線を張り巡らせたり、高価なエコ設備をたくさん取り付けたり、エアコンも何台も取り付けるような住宅には魅力を感じません。家がいろいろなものを背負わずに、シンプルに快適であってほしいと思っています。そして、身軽なまま環境負荷を軽減しようと言うとき、家そのものの断熱性能を高めてあげるというのは、実は一番の近道なんです。

D7H_9573インタビューに答えて頂いた後田哲男さん。機能と合理性を求めるモダニストでもある。

12s後田さんの設計したゼロエネルギー住宅。抜群の断熱性能とモダンなデザインが特徴だ。

 

―しかし「断熱」というと、それを深く理解することは、初めて家づくりをするお施主様にとって、少しハードルが高いような気もします。説明するのはとても大変だったと思いますが、お施主様との関係づくり、共通理解の促進と言う意味で心がけていることはありますか?

おかげさまでお客様に恵まれ、住宅棟数も増えてきました。振り返ってみると、家づくりに積極的に関わってくれるようなお施主様が多かったのは、ほんとうに幸運だったと思います。ただ、私自身も、施主様がどんどん関われる家づくりにしたいとは思ってやってきました。細かな部分についてしっかり説明して、納得してもらう。そのプロセスが重要ですよね。

例えば「原価公開」のシステムもそうです。通常、建設会社が施主様にお出しする見積もりというのは、基本には原価を見せることはありません。諸経費や管理費などをプラスしたものをお客さんに提案します。それが一般的なやりかたですよね。

だけれども、家づくりってそもそも非常にお金がかかるものです。ウン千万とか、本当に本当に大きな出費です。ですから、できる限り納得して家づくりをしてもらいたいんです。それで「原価公開」というシステムを採用しました。すべての材料、木材や建材や屋根の素材や配管に至るまで、すべて「原価」をお客様に公開します。そのほうが皆さん不思議と納得されるんですね。ウソを書いてるわけじゃないし、経費などについても、しっかり説明すれば少しずつ理解して頂けるような気がしています。

原価公開にしたことで、お施主様が自ら家づくりを学ぶ機会が増えたようです。ここにこんな風にお金がかかる、どうしてお金がかかるのか、どのような機能なのか、自分たちが払うお金ですから、皆さんが自発的に学んで下さるんです。すると、住宅に関する知識が増えるだけでなく、いつの間にかコスト管理ができるようになるんですね。このコスト管理という意味では、私たちにも大きなメリットがあります。よりお客様との信頼関係が構築しやすくなりました。

D7H_9547スタッフとの打ち合わせ。納得するまで額を付き合わせてものごとを決める。後田工務所では女性が活躍しているのも心強い。

D7H_9533取引業者さんも頻繁に訪れる。お施主さまの見えないところで、日々情報がやりとりされ、家は作られる。

 

―なるほどよくわかります。特に家の機能については費用もかかりますから説明は不可欠ですよね。ところで、後田さんご本人は、どのような経緯で家づくりに携わるようになったんですか? 後田さんの建築のルーツについて教えてください。

後田工務所というのは、実は100年以上続く大工の会社です。以前は、大型の物件や公共事業を請け負っていました。しかし、バブルが崩壊して、全国各地どこもそうだと思いますが、これまでのような経営では難しくなってきた。ちょうどその頃、わたしも住宅がやりたくて、実践的な勉強をしようと思って実家に戻ってきたんです。そして、住宅部門を立ち上げて、今に至っています。

家を継いだきっかけは、そんなに強いものじゃなかったですね。昔からいきなり現場に連れて行かれてたりして、現場の雰囲気はよくわかってたんです。それでいつの間にか、設計事務所か工務店を自分でやりたいと思うようになりました。そして、実際に仕事ととしてやろうと思い始めた学生時代に阪神淡路大震災が起きて、木造住宅がバタバタ倒れていくのを目にしました。本当にショックな光景でしたが、あの光景が目に焼き付いて、住宅をもっと丈夫にするにいはどうすればいいんだろうと思って、それで本格的に木造住宅の勉強をし始めたんです。

あと、もう1つのきっかけがありました。学生の頃、とある有名建築家が設計した住宅に見学に行ったんです。コンクリートの打ちっぱなしでRCの構造もかっこよくて、すごいなあって思っていたんですが、奥の納戸のような狭い部屋になぜかコタツがあって。それでその家の奥さんに話を聞いてみると「この家とても寒いんです」とおっしゃるんですね。驚きました。プロの建築家の作る家は住環境や居住性も優れた家だと思ってたんですよ。こんなにカッコいいのに、夏は暑くて冬はとても寒いのかと、とても複雑な気持ちになりました。

正直学生の頃は、設計志望だったので、家はかっこよければいいと思ってたんですね。でも、さきほどお話ししたような経験をして、いくらデザインが優れていたとしても、住環境や居住性が高くなければダメなんだと思うようになりました。もちろんわたしだって有名建築家のように大空間でかっこいい建築をつくってみたいと思ってましたよ。でもだからこそ、居住性や住環境を整えたうえで、デザイン性の高い作るにはどうしたらいいんだろうと考えるようになったんです。たどり着いたのが「断熱」でした。

D7H_9630事務所に飾られた模型たち。ひとつひとつの家に、後田さんのこだわりと物語がある。

D7H_9623家は身軽な形で作ってあげたいという後田さん。その話し振りからは住まいに対する愛情が感じられた。

 

―後田さんの考える理想の家とは、どんな家でしょうか。

私個人は、住まいは小さくてもいいと思っています。機能がしっかりしていて、家具の大きさと部屋の大きさが住む人にマッチして使い勝手がよければ、帖数や坪数はあまり関係がなくなるんですね。よく香港映画に、狭い部屋なんだけど、壁に取り付けられた板を倒すと、それがベットになったりテーブルになったり、家族の団らんのスペースになったりするシーンが出てくるんですが、あれも理想の1つですね。狭くても、機能がギュっと詰まっていて、そこに住まう人が楽しく暮らせる。そんな家ですね。

政府がグリーン化事業を後押ししているように、家の性能というのは年々向上してきていますから、住まいの質は下げられません。新しい機能も数年経てば当たり前の機能になってしまいますしね。ですから、これからはさらに質をよくしつつ、コストを下げていく工夫をしていかなければいけません。でなければ、家はどんどん高価なものになってしまいますからね。

実は今、いわき市鹿島の蔵持というところに、実験的なエコハウスを建てています。これは、ドイツのパッシヴハウスの基準を満たすエコ住宅なんですが、仕上げ材は比較的安価な素材を工夫して使い、徹底してコストダウンを図っています。高機能、高付加価値の家づくりもやりつつ、一方で、高機能でありながらローコストな提案にも力を注ぎたい。これはここ数年特に意識するようになりました。

やっぱり、家というのは未来に向かって作るものだと思うんですよ。日本人の感じる「居心地のよさ」をより豊かなものにして、そこでの暮らしが素晴らしいものになる。なおかつ環境になるべく負担をかけない。そんなかたちに「進化」させていかないといけません。

その意味で、やはり大きな鍵は「断熱」です。断熱すればするほど、環境負荷をかけずに省エネと住みごこちを両立でき、家が身軽になれます。規格も小さくて済むんですね。家は、なるべくなら身軽なかたちで作ってあげたい。そのためには、家そのものの断熱性能をあげるのが一番だというのが私の考えです。

これまでも、断熱性能だけではなく燃費、日射取得量なども計算した上で住まいを提案してきましたが、数字で表せることだけではなく、住まい全体で暮らしを豊かにするデザインというものを、今まで以上に考えていきたいと思っています。その先に、「後田の作る家はこんな家」というような、自分たちならではのスタイルが生まれてくれればいいですね。


会社名:株式会社 後田工務所
所在地:〒971-8162 〒971-8162 福島県いわき市小名浜花畑町48-13
代表取締役:後田 哲男
管理建築士:後田 哲男(二級建築士 福島県知事登録第11991号)
TEL:0246-92-4852 / FAX:0246-92-4811
E-mail:info@ushiroda.com
主な事業内容:住宅の設計および施工
事務所・店舗・商業施設等の設計及び施工
その他、増改築・リフォーム・建物補修等