これまでは、家づくりの具体的な要素について書いてきたこのコラムですが、今回からは工事が始まった後の作法、とりわけ伝統文化について考えてみたいと思います。設計が終わり、いざ工事が始まるタイミングになると、例えば地鎮祭や上棟式はどうするか、大工さんには差し入れをしたほうがいいのか、工事現場には入ってもいいのかなど、今まではまた違った形で悩みが生まれるもの。
工事が始まると、まず直面するのが「地鎮祭」です。地鎮祭というと、たまにテレビのニュースなんかでも見たことがあるのではないでしょうか。神主さんに来てもらい、祝詞をあげ、玉串を捧げて、木のスコップみたいなもので「エイッ、エイッ!」とかやるやつ、あれです。
地鎮祭は、土木工事や建築などで工事を始める前に行うもので、工事の無事を祈る儀式として認識されていますが、そもそもは、その土地の神(氏神)を鎮め、土地を利用させてもらうことの許しを得るというお祭りです。諸説ありますが、1000年以上前から行われている儀式なんだそうです。
私も執り行いました。準備の仕方がよくわからなかったので、まずは自分たちのほうから、地鎮祭はどうやればいいかを業者さんに確認。その指示に従って必要なものを用意し、手筈を整えました。
私たちの場合は、神主さんの手配は自分たちでするよう言われていたので、そこだけは自分たちで動きました。神社に確認して日付を確定。支払いについては「地鎮祭セット」のようなものがあり、お酒代や供物代として1万円支払う必要があるとのこと。これは最低限の初穂料だと考えたので、実際にはお礼も含め3万円をお渡ししました。地鎮祭の当日に渡すかたちですね。
青竹や注連縄など必要な備品については、建設業者さんがすべて用意してくれました。業者によっては費用を求められることもあるようですが、私の場合は費用は請求されず、すべて用意して下さいました。逆にお礼を渡したくなるところですが「お礼も必要ありませんよ」と事前に言って下さったので、安心して執り行うことができました。
—地鎮祭をなぜ行うのか
地鎮祭なんて必要ないじゃんって思う人もいるかもしれませんが、なぜ地鎮祭をやるかといえば、儀式が必要であるということよりも、むしろ「家づくりに関わる人たちが一堂に集まるという機会を作るため」ということではないでしょうか。厳粛な雰囲気の中で、そこでみんなが顔を合わせて「さあこれから家づくりだ」という一体感を作る。これが重要なのだと思います。
家づくりが始まってしまうと、大工さんと顔を合わせる機会が数多く発生するわけではありません。その前に、どういう方がこの家づくりに関わっているのか、お互いに確認しておけば、顔の見える関係になり、工事途中に顔を出したりすることもお願いしやすくなるような気がします。
もちろん、儀式によって、その土地の神様に感謝することも大事です。日本は古来より、同じ土地に住む人々が共同で祀る神様がいます。私の暮らす小名浜地区には、諏訪神社、鹿島神社、住吉神社などがありますが、新しい土地に住む場合は、家を建てる土地の氏神様がどの神社に祀られているのかを知るきっかけにもなります。
そして何より、地鎮祭を行うことで、その土地の、その家の主としての自覚が生まれたような気がします。これからここに暮らすんだな、ということを強く実感できましたし、地に足をつける感覚というのでしょうか、地域や土地のことを思うきっかけになりました。
何かと「面倒な儀式」として処理されがちの地鎮祭ですが、家づくりをさらに主体的に考えていくきっかけになりますし、日本人と神様の関わりを知る貴重な機会になるはずです。業者さんにやってもらうのではなく、自分たちでやる、という気持ちで取り組んでみてはいかがでしょうか。
これと同じような儀式に、柱や梁などの木材を組み立て終わったときに行う「上棟式」があります。大工さんへの慰労も込めたお祝いの式で、お酒を振る舞うのが通例です。余裕があればこちらもやったほうが良いかもしれませんが、最近では、準備に手間がかかることから、上棟式をやらない業者さんも増えています。だからこそ、地鎮祭だけはやっておくと良いと思います。
家づくりのスタートという踏ん切りをつけるための地鎮祭。気持ちが切り替わりますよ。