いわきからパッシブハウスの潮流を

ー家ナビ編集部の会社訪問その2ー

環デザイン舎 北瀬幹哉さん

自然のエネルギーを活かしたパッシブな建築設計を生業としながら、自ら野菜を作ったり、生産者のお手伝いをしたりと幅広い活動を展開している環デザイン舎の北瀬幹哉さん。いわきらしい理想の住まいとは何か、そして北瀬さんの考える設計とは何かについて、設計に携わった二本松のアグリエコステーションを例にとりながら、お話を伺ってきました。[wc_divider style=”dotted” line=”single” margin_top=”” margin_bottom=””]

―昨年の秋、北瀬さんが設計を手がけた二本松アグリエコステーションが完成しました。省エネ性能にこだわったエコルームになっていますね。どんなところに工夫があるのですか?

この建物は、二本松の農家さんが収穫した野菜を持ってくる集荷センタ―のような建物です。予算もギリギリまで削ったためシンプルなつくりですが、大小さまざまなエコデザインに取り組みました。事務局長さんが、震災後は野菜だけでは食べていけなくなるかもしれない、エネルギーでも食べていけるようになりたいという考えをお持ちで、自ら先進国であるドイツまで勉強に行かれていたり、エネルギーに対してとても理解のある方だったんですね。ここにモデルハウスのような物件ができれば、農家さんたちも家づくりに活かしてくれるだろうという狙いもあり、さまざまな工夫をしています。

まず象徴的なのは、薪ボイラーを使った蓄熱床暖房。薪でお湯を炊いて、床に埋め込んだ配管の中にお湯を通して部屋全体を温めるというものです。施主さん自ら、この床暖房を開発した長野県の会社まで赴いて購入を決めています。シンプルな作りなので施主さんも一緒に施工しました。壁の断熱は120mmの高性能断熱材に加え、外側にも45mmの付加断熱を入れました。気密シートも使っていますので、パッシブな性能を活かしやすい高断熱空間になったと思います。

DSC_0343あだたらアグリエコステーションの外観。屋根から一部突き出た越窓が通風をもたらす。

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韓国製の薪ボイラー。ここで温めたお湯が床下の配管へ送られ、部屋を温める。DSC_1514高断熱や省エネについて、丁寧にレクチャーしてくださった北瀬さん。

―計画は2年がかりだったそうですね。その2年間で、施主さんの意識もかなり変わってきたのでは?

そうですね、「環境教育」という意味でも非常に大事だったと思います。このステーションには木製サッシを入れたかったのですが、予算の都合もあり基本は樹脂ペアガラスにしてあります。ただ、1カ所だけトリプルガラスタイプのサッシを入れているんですね。これは、トリプルガラスサッシの性能を知るために敢えて入れたもので、冬の時期にサーモグラフィーなどを使って窓の温度を実際に見てみることで、事務局長さんや会員の農家さんが断熱を知るためのよい材料になると考えました。

また、天井には「越窓」という屋根から飛び出たような形状の窓をつけています。ここから自然換気が促されたり、自然光が入る効果もあります。それだけでなく、梁材が露出するので、福島県産の木材が常に目に入る効果も期待しています。この他にも、二本松で作られている次世代蛍光灯を使用したり、日中の省エネにつながるよう、南側の蛍光灯のスイッチを独立させたり、小さなところにも配慮しています。

事務局長さん自ら断熱についてかなり熱心に学んで頂いたことで、私が説明しなくても、このステーションに関するあらゆる情報を説明してくれるようになりました。ここにはこんな断熱がされている、ここはこんな風に施工すればいい、そうした情報が農家さんの間で共有されることで、断熱や省エネに関する知識が普及していくんですね。これが重要だと思っています。

断熱や省エネ技術などの先進国であるドイツでは、エコリフォームを推進することが、地域の工務店の仕事を生み、地域全体の産業が活性化するという考えが一般的です。日本でも徐々に断熱住宅が当たり前になってきていますが、設備的にはまだまだ他国に遅れをとっているのが現状です。

今回、ステーションに取り付けた薪ボイラーは韓国製ですし、組合長さんの自宅に導入した真空管の太陽熱温水器はスペイン製なんですね。輸入すると高額になるものもありますし、メンテナンスも簡単ではないので、住宅にかかるエネルギーを軽減するための手頃な価格帯の設備の充実化は、さらに日本で発展して欲しいところですね。

 

DSC_0354事務局長さんの自宅に取り付けられた、スペイン製の真空管太陽光温水器。DSC_0325アグリエコステーションの内部。農家から集められた野菜を管理し、スーパーなどに送る施設である。

 

―自然エネルギーの住宅設備分野で日本が遅れているというのは知りませんでした。しかしそもそも、私たちの暮らすいわき市は、気候に恵まれているので断熱に関するニーズというのはあまりないような気もします。そもそも「いわきで断熱」は必要あるんでしょうか。

日照時間の豊かないわき市だからこそ、パッシブな住宅に適した環境なんですよ。断熱というと「温かい住宅」というイメージが強いですが、それは同時に「エネルギーを使わずに済む住宅」でもあります。いわき市のような環境ならば、断熱をしっかり施して、南向きで太陽光が入る家にしてしまえば冬の暖房期間はかなり少なくできます。通風と日射遮蔽も整えてしまえば、夏の冷房量も減らせます。住まい手が意識しなくても、過ごしやすく快適な家ができるんです。

確かにいわきは気候に恵まれていますが、さすがに冬には暖房を使いますよね。しかし、寒ければ新しくヒーターを足せばいいやとか、暖房を入れればいいやとか、どうしてもエネルギーを「足す」思考になりがちです。本来はいかに消費エネルギーを「減らす」、そして自然のエネルギーをよりよく活かす、パッシブな考え方を身につけられるとよいですね。

そこで大事なのが「エネルギーの質」まで考えることです。例えば、人がひとり入るお風呂を温めるのに、電気のような高級なエネルギーを使う必要はありませんよね。太陽熱で温めるので充分ですし、そのほうが環境に負荷を与えません。お湯を温めるくらいなら太陽熱でいい、でもパソコンを動かすには電気を使おうとか、そんな風に「エネルギーの使い分け」を念頭に置いた環境デザインをやっていくべきだと考えています。

もちろん、そこまでひっくるめた上で、施主さんが無意識に住み心地の良さを感じられるような「住まいの骨格」を設計することも、私たちの仕事だと思います。教育するだけでなく、デザインの力で無意識の快適性を生む骨格を作る、というか。そこは常に意識していきたいところですね。

DSC_1535

いわきならではのパッシブハウスを作りたいと意気込みを聞かせてくれた北瀬さん。

―なるほど。確かにエネルギーの質まで考えたうえで、いわきならではのパッシヴな住宅を提案できたら、これぞ「いわきの家」というモデルハウスができてくるかもしれません。今後は、どのような家づくりを目指していきたいですか?

私は2008年にいわきに引っ越してきたのですが、日照時間が豊かだというのはその時から知っていて、せっかくいわきに行くならパッシブハウスもやりたいし、農業や地域ならではのものづくりにも関わっていきたいと思っていました。

もともと私が建築をやり始めた頃は、「まちづくり」とか「住民参加」を促すようなプロジェクトに関わることが多かったんです。なので、私のデザインのベースには、地域の風土やそこに暮らす人のニーズをどう組み込むか、ということがあります。今も、いわき市の若手農家ととともに「ineの会」というプロジェクトを企画したり、農産物のパッケージデザインやウェブデザインなども手がけていますが、やはりデザインのベースには、地域のニーズからものを作るということがあるようです。

まちづくりの仕事で日本全国行って、そのあちこちで「いい素材があるのに活かし切れてないのは勿体ない」と思うことがたくさんありました。例えば、いわきでも、いいものがありながら、なかなかそれが市民の目に触れる場所に置かれていなかったり、それから豊富な木材資源もブランド化されておらず、勿体ないなあと思うことがたくさんあります。それに、やはりこの豊かな自然環境を活かした住まいづくりですね。

繰り返しになりますが、自然の太陽熱や薪を燃やしてエネルギーにできる装置というのは、まだまだ日本では普及していません。しかし、地方の中小企業から新たな製品が生まれてきていて、福島県内や国内からも面白い商品が出始めています。そうした装置といわき産木材を使って、地元の工務店がつくる「いわき産パッシブハウス」のようなものが作れたらと考えています。原発事故を経験した場所だからこそ、エネルギーには敏感でありたいと思いますし、「さすがは福島だ」と言われるような時代を引き寄せられる、地元の製材所、工務店、設計者で取り組む家づくりに取り組んでいきたいと思います。


文・写真:小松理虔(ヘキレキ舎

 

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