家づくりは、「後の先」の心で

ー家ナビ編集部の会社訪問その7ー

(有)正工務店 山崎 勝幸さん

家ナビの事務所訪問。今回お邪魔したのは泉町の正工務店。社長で一級建築士の山崎勝幸さんにお話を伺いました。旧磐城泉藩の鎮守、諏訪神社の儀式殿の建立を任せられるなど、日本建築の伝統技術を現代に伝える一方、和洋のデザインを取り入れた現代的な住宅も手がけている正工務店。その家づくりに通底する理念とは、どのようなものなのでしょうか。

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—諏訪神社の儀式殿などに代表されるように、正工務店さんの建築には「伝統技術」が活かされていますね。そこでまずは、山崎社長の「技術」対しての考えについてお聞きかせ頂けますか?

やはり、日本人の建築技術というのは世界一だと思っています。日本で家を作るのに日本の技術を活かさないというのは本当に勿体ないと思っていますよ。その技術は、やはり日本人の繊細さに由来するんだと思います。釘を打って止めておけば良い、ペンキを全面に塗ってしまえば良い、というわけにはいきません。床板1枚、天井板1枚にまで意識を向けて、木目を活かして構造や空間を作っていきます。諏訪神社もおかげさまで表彰も頂きましたが、私たちの技術を評価して頂いたことは本当に光栄なことだと思っています。

ただ、その高い技術も、家が丈夫でなければ次の世代に残すことができません。技術の根底には、家を長く残すこと、つまり「頑丈であること」が欠かせません。これまでも、家づくりにあたっては頑丈であることに特に気を遣ってきましたけれども、東日本大震災を経験したこともあり、その考えはより強くなったような気がしますね。家というのは、それそのもの自体が財産であるだけでなく、人の命や家財を守るためのものですよね。家も財産も守られなければ、家本来の役割を果たしたとは言えません。

ですから、家の構造に関するもの、木材にしても金物にしてもそうですが、そこでコストを大幅に削るということはしません。家の土台や基礎、縁の下というのは外からは見えませんが、そこにこそプロの技術が問われると思うからです。見えない所だからこそ絶対に手は抜けません。土台や基礎は、後からそっくり入れ替えることはできませんからね。20年、50年、100年というスパンで財産を守ること、それが家づくりに問われることではないでしょうか。

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—家の耐久性について、具体的に工夫していること、他社と差別化を図っているなどはありますか?

土台は上げるように心がけています。なぜかというと、家を作ってから何十年と経つうちに、土台の周囲の土地の高さが少しずつ上がってくるからです。例えば道路工事も、新しいアスファルトを古い道路の上にかぶせていきますし、庭仕事や園芸なども、砂利や土を庭の土にどんどんかぶせていきますよね。それが50年続けばどうでしょう。家の周りが高くなってしまうんです。ほんの数センチでも大きな差です。大雨などが降ると縁の下に雨水が入ってしまい腐食の原因になることがあります。ですから、土台をあらかじめ上げることを意識しているわけです。

あとは屋根ですね。日本の伝統家屋は、立派な屋根瓦を使う家が多いのですが、実は10トン近くの重さになります。入母屋の家だと20トン近くになるかもしれませんね。古い家の持ち主に話を聞くと、東日本大震災で屋根の重みで家が揺らされ、家が潰れるんじゃないかと思って外に飛び出したという方が少なくありませんでした。確かに見た目の重厚感は出るのですが、重いものが上に乗っているわけですから、揺れに対しては強くありません。ですので、屋根は板金で作ることを私はおすすめしています。重さは瓦屋根の10分の1以下で済みます。

—なるほど。災害の多い日本だからこそ、安心感は強く求められるわけですね。安心感と言うと、家そのものだけでなく、家づくりのプロセスやコミュニケーションにまで求められることだと思います。お施主さまとのやり取りやコミュニケーションで意識していることはありますか?

やはりコミュニケーションを綿密にすることは意識しています。家づくりには時間もかかるし、第一、何千万円というお金を預けるわけですから、信頼できる人に任せたいものですよね。信頼できる人と一緒に家づくりができたからこそ、その安心感はより強くなるんだと思います。ですから、私も施主さんとの信頼づくりには人一倍気を遣いますし、コミュニケーションを大切にしています。

ただ、「お客様だから」気を遣うというのとは少し違って、私は「人と人との関係」を作っていきたい。家づくりが終わっても長く付き合えるような関係と言うのでしょうか、そういう関係ができるように相手を良く知ろうとすること。その方を好きになるというのか、ずっと良い関係でいられたらいいなと思っています。逆に言えば、そういう関係ができなければ、その方の好みやライフスタイル、家に求めることをよく理解できないと思うんです。書面やメールのやりとりで家を作るわけじゃありませんから。

お客様も心地よく、そして私自身も心地よく、そういう関係が築けると、自然と本音で語り合えますし、相手のニーズを拾い上げることができ、結果的に満足度の高い家ができる。人によって家に求めるものは違いますから、良い家といっても、その解釈は人によって違います。私は「良い家イコール満足度の高い家」だと思っています。人と向き合い、その人のことを良く知り、関係を長く続けていく。そのことを意識していますね。

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—山崎社長にお話を伺っていると、「人」を大事にされているのを強く感じます。なぜそのような思想や考え方が生まれたのかをお聞かせください。

私の過去に鍵があるかもしれません。実は私は大学を卒業して、学校の先生や少林寺拳法の師範をしていたんです。大学でも建築ではなく法律を学んでいました。でも、そこで「人と向き合うこと」の大切さを学んだ気がしますね。というのも、もともと建築の仕事を志していたわけではなく、結婚した妻がたまたま工務店の家の出身で、結婚を期に妻の実家の家業を引き継いだという形なんです。正工務店の創業者であり先代の馬上正は、私の義父にあたります。

人と人の関わり、という意味で、もっとも影響を受けたのは少林寺拳法でしょうか。拳法というのは、拳によって法、つまり宇宙の法則を知ろうというものです。ただ殴り合いをするわけではないんですね。拳法によって、人と人の関わりや規律、文化、歴史や自然の理を学ぶということです。そして拳法でもっとも重要なことは、当たり前ですが「相手がある」ということ。つまり、人と向き合うということなんです。

横綱の白鵬が目指す相撲に「後の先(ごのせん)」という考え方があります。自分から先制攻撃して相手を圧倒するのではなく、相手の力や技を受け止め、それに呼応して、あるいはそれを崩して相手を制圧していくような相撲です。白鵬は、それこそ横綱の相撲だというわけですね。実はこの「後の先」は、少林寺拳法においては基本とされる考え方なんです。後先必勝とも言われます。

これは家づくりにも繋がる考え方です。こちらから特定のスタイルや型を出して、それに相手を押し込めるのではなく、相手の考え方をまずは一旦引き受け、その上でこちらから提案するということなんですね。そしてまた、出てきた答えを受け止めて、お施主さまに返していく。そのキャッチボールの連続が家づくりなんだと思います。

—なるほど「後の先」という考え方は、人のコミュニケーションにおいても当てはまりますね。しかも、そういう考え方を、山崎社長が拳法から学んだというのが興味深いと思います。最後の質問になりますが、人を大事にする山崎社長が考える「お施主さまとの理想の関係」というのは、どのようなものでしょうか。

そうですね、繰り返しになりますが、長く続く関係ということでしょうか。家は作って終わりではありません。家が丈夫で長く続くのと同じように、お施主様との関わりも長く続いて欲しいと思っています。いい家を作るために何度も関わるうちに、「お客さん」という関係ではなく、人と人の関係になっていく。たまには一緒にゴルフに行ったり、一緒に食事を楽しんだり。そういう関係を結べたらいいですね。

実は、少林寺拳法を始める前は野球をやっていたんですが、それもあって、今では地域の少年野球チームやソフトボールチームにも関わらせてもらっています。そうやって人と人と関わりを持って、向き合っていくことが私自身好きなんでしょうね。色々な人と出会って、また色々な刺激を受けて、自分も成長していく。自分を成長させてくれるのも、やはり「相手」あってのことなんだと思います。

また精神的な話になってしまいますが、つまるところ、私は「人」というものが大好きなんでしょうね。これからも、人との出会いや、そこで得られる学び、成長を大事にしていける工務店でありたいと思います。

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会社名:(株)正工務店
所在地:〒971-8185 いわき市泉町3丁目19-4
代表取締役:山崎 勝幸
TEL:0246-56-7404 / FAX:(0246)56-1750
E-mail:info@tadashikoumuten.com
主な事業内容:
1、建築工事の設計及び請負
2、不動産の売買・賃貸及び仲介
3、上記に付帯する一切の業務


文・写真:小松理虔(ヘキレキ舎

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