清涼感ある竹林を背に、突如宇宙船が着陸したような、日常と非日常が交錯するお住まいが完成しました。家ナビ編集部も建築中からとても気になっていました。設計は埼玉県のIGArchitects一級建築士事務所、施工はいわき市の株式会社小森工務店が担当。家?オフィス?ギャラリー?やっぱり宇宙船?外からは全容が全くつかめませんが、実は完全分離型の2世帯住宅になっていて、入口を境に2つの大きなワンルームが広がっています。家の既成概念を覆してくれる建物の全貌を、ぜひ最後までご覧ください。
柱群の家
IGArchitects一級建築士事務所 五十嵐理人
周囲は住宅が建ち並び、裏に大きな山を背負った旗竿の敷地。2世帯住宅の計画で、クライアントは周囲や世帯間のプライバシーを尊重しながらも平屋でおおらかに暮らすことをイメージしていた。閉じられた環境と、裏山の緑を室内に取り込めるような開かれた環境を同時に作り出す建築が良いのではないかと考えた。
建物は南側を大きく開けて、裏山に沿うようにくの字に配置している。周囲からの視線を遮るように壁を立て、その上にハイサイドライトを設け、まるで屋根だけがふわっと浮いているように計画している。内部は大きなワンルームで、トイレや浴室、収納といったプライベートな機能だけを箱に格納し、分棟状に配置している。この箱と林立する柱によってつくられる奥行きのあるワンルームは広場のようなラフなスペースになっていて、住み手の自由なふるまいを受け入れてくれる。
室内に立つ柱は一間ピッチに立てられているが、建築であると同時に人に近い家具のような密度と佇まいになるように、90mm角としている。この90mm角の柱が3.5mの長さで林立し、屋根を支えている。細長い柱は一般的な木造建築の規則を踏襲して建てられているが、柱の数や密度、そして3.5mというスケール間が外部の緑と連続して、人工と自然の間の森のような空間になっている。
この建築では建築の構成要素を1度バラバラに分解し、再構成することを試みた。柱は壁から飛び出し、踊るように林立する。屋根は壁から離れ、揺蕩うように浮いている。バラバラになったものが再びありようを変えて、統合されている。だけどそこにできたズレや隙のようなものが建物内外、内部同士に新しい関係性をつくりだしている。「一間ピッチに柱を立てる」というシンプルな木造建築の構成を採用しながら、その構成を超えて複雑で豊かな環境が生まれている。森のような秩序と木々の足元のような雑然さの同居する建築を目指した。
1.外観〜エントランス
空から見ても存在感のある佇まい。正面は住宅街、裏を竹林という旗竿の土地に建てられた「くの字」型のお住まい。
屋根が浮いている?窓がない?頭の中が疑問符だらけになるのは宅配便など配達の方も同じようで、「ちょっと見せてもらっても良いですか」としばしば声をかけられるのだとか。
玄関扉は両開きのように見えて、それぞれ独立した扉となっており、ここから建主様ご夫婦のお住まい、ご両親のお住まいと分かれています。
2.柱群のワンルームLDK
水回りや収納などプライベートな機能を箱に収納し、あとは自由度の高いラフなワンルームな間取り。1.8m間隔に並んだ柱が圧巻です。90mm角と細い柱材を使っているので存在感を示しつつスタイリッシュに収めています。
建物の中でも象徴的な「揺蕩う屋根」。屋根下のハイサイドライトが建物全周をめぐり、天井は軒まで同素材で続き、どこまでが内でどこからが外なのかを曖昧にしています。
窓の位置を上部に配置することで、住宅地の中でもカーテンのない開放感が得られる効果も。
高さ3.5mを2分割したスペース。2階部分は現在は書斎になっています。部屋の模様替えが好きな建主様に呼応する自由度の高さ。吊り橋のような階段の先にはロフトスペースがあります
高さを抑えて洞窟感のあるお籠もり空間。ワンルーム構造ながら明暗と高低でその空間の居心地までもゾーニングされています。ここにこたつを置くこともあるそうですよ。
壁のラワンベニヤの塗装は、全てご主人がご自身で塗られたそうです。膨大な面積だったとか…
存在感を放つ群柱の両端部には加工を施し浮遊感を。屋根だけではなく柱もまた周囲との接続から解放された姿を演出しているとのこと。
3.空間と照明
照明はダウンライトは設けず壁面のブラケットのみ。天井には柱のシルエットが美しくに浮かび上がります。森のような群柱、浮遊する天井、そして照明の効果で、夜は室内でグランピングをしているかのような雰囲気に。日常と同居する非日常を感じられる贅沢な時間です。
「人と変わったものが好き」インテリアと模様替えが大好きな建主様ご夫婦。ご主人の妹さんから建築士の五十嵐さんを紹介されたそうです。お二人の趣味とテイストが見事に反映された唯一無二の家になりました。
4.ご両親世帯
ご両親世帯も基本的にワンルームベース。玄関入って手前側にダイニングキッチンを設け、奥がリビングスペース。右手前と左後方にロフトスペースがついています。
こちらのリビングは、ご両親が使い慣れたフローリング張り。そして、足腰の負担を考慮し、ハシゴではなく階段でロフトへの動線を確保しました。
小森工務店より
お話をいただいたとき、「これをつくるんですか?」と驚きが先にきたのが正直な感想でした。話が進んでいくと、建主の旦那様と出身の中学校が一緒であったり、実はお祖父様が増築した際にうちの父が施工を担当したりという関係性が見えてきて、大変でしたが楽しく施工させていただきました。
普段は設計から施工までを自社で全て行なっているので、自分以外が設計した建物を施工させていただけるのは刺激になりますし、勉強になります。これからも年に1、2度はこのような機会があるといいですね。
左が設計の五十嵐理人さん、右が施工の小森社長。