いわき市の温泉街、常磐湯本町。福島県有数の温泉地として、またいわきの行楽の中心として、現在も多くの観光客が訪れる温泉街です。その温泉街の一角、住宅や飲食店がひしめき合い、かつての賑わいを色濃く残す地区の35坪の土地に、その狭さを全く感じさせない、コンパクトで広く使える家が完成しました。
子育て世代が土地から求めて家を建てる時、ある程度敷地が確保できる住宅地や郊外を選ぶことが多いですが、今回のご家族はあえて「まちなかで暮らす」ことを選択しました。土地は限られますが駅にも近く、温泉街の人と町の体温がなんとなく感じられるのが気に入った理由とか。
1.土間と1階
玄関を入ると目に入ってくるのが、印象的な土間。壁材として使われているレッドシダーや、黒く染められ、あらわしになった2階の床組などが、個性的な空間を作り上げています。リビングが2階にあるため、遠方からやってくる高齢のご両親が足を休めたり、子どもたちが使うピアノを置いたりと、さまざまな使い方を想定しているそうです。1階の面積の3分の1ほどを占めていて、かなり広くとられています。
しかし、「フリールーム」ではなく「土間」なのはなぜでしょう。設計を担当した佐藤大さんは「庭の役割と、コミュニティスペースの役割を持たせられるのが、土間の利点」だと語ります。
「例えば旦那さんが日曜大工をしたり、リビングではできない団欒の時間を過ごすことができますし、完全な外の空間ではないので、いわばプライベート空間と外の空間をつなぐ『コミュニティスペース』のような場所にもなります」と佐藤さん。子どもの成長に合わせて自由に使えるので、子育て世代の新築の家には最近増えているそうです。
黒い天井とレッドシダーの壁が印象的な土間。土間を広く取り、庭の役割やコミュニティスペースの役割を持たせている。
写真左手のほうに、主寝室と浴室、洗面所を設けている。空間を引き締める天井と階段の「黒」が印象的。
土間から1階に上がると、奥にあるサニタリースペース。流しや棚などは、周囲の雰囲気に合わせて大工さんがつくったもの。
2.2階L D K+子供部屋
階段を上がると2階には子供部屋とLDK。周囲を住宅に囲まれているため、眺望がよく、日当りもよい2階に家族が集う空間をつくった形です。
2階は無垢材をふんだんに使った空間で、周囲より20cmほど高くしたリビングスペースが家族の団欒の場となります。段差があることで部屋に奥行きが生まれ、部屋を仕切らずに機能を区別できるため、スムーズな動線が生まれます。キッチンのすぐ脇にはダイニングテーブルを置き、逆側の階段のそばには子どもたちの学習スペースをつくるなど、広々としたリビングにさまざまな機能を持たせています。これが「広く使える」理由。
2階リビングは仕切りを作らず「段差」によって機能を区別。その「段差」に腰を下ろすことができ、自然と人が集まる団欒の場に。奥には子供部屋も見える。
部屋の角にはダイニングテーブルを。リビングの段差に座れる。眺望も抜群。
アカシアのフローリングに合わせ、同じ南洋材のラワン合板で仕上げた棚が美しいキッチン。写真の奥の突き当たりにダイニングテーブルがある。動線もシンプル。
2階の子供部屋。入り口が3つあり、2本の梁によって「3部屋」に仕切りこともできる。3人の子どもたちの成長に合わせて空間も変わっていく。
子供部屋につくられたロフトは収納スペースとして充分。子どもたちのおもちゃや洋服などをたっぷりとしまえる。
3.空中の小さな「庭」
2階リビングの脇のウッドデッキや、ロフトから外に出たところの小さなバルコニーも「庭」の役割を果たします。ここからは湯本の温泉街が一望でき、贅沢な夜景を楽しむことができそう。限られたスペースを多機能に使うことが、家を「広く使う」秘訣。35坪という狭小土地をアイディアで活かした、まちなかの暮らしが始まります。
リビングからは段差がなくウッドデッキに出られる(写真左)。ウッドデッキの扉は収納部屋にも続いており回遊性もある。
ロフトから出られる屋上のバルコニー。天気のよい日はここでゆっくりできそう。湯本の街を見回せる素晴らしい眺望。