家庭の動線に行き止まりを作らず、図面上に円を描くように作られた動線。それが「回遊動線」。このたび後田工務所さんが手がけた住宅には、その回遊動線が効果的に組み込まれています。人と風が家の中を廻り、淀みのない暮らし。デザインと性能がハイレベルで融合し合う、後田工務所さんらしいお宅となりました。
いわき市泉町の閑静な住宅街に完成したM様邸。道路に面してお施主さまのお母さまが暮らす母屋があり、その母屋の奥の敷地に建てられているため、敷地の面積が限られ、しかも土地の形はほぼ正方形と設計者泣かせの敷地でした。
そこで、後田工務所の後田哲男さんが取り入れたのが1階LDKの「回遊動線」。リビング、和室、キッチン、ダイニングスペースを巡るように動線が組み込まれています。行き止まりがないので、人が滞留せず、「帖数」以上に広々と感じることができます。
リビングを起点に、右手に和室。その和室からは奥の通路を通ってキッチンへ抜けることができ、さらにキッチンからダイニングへとつながり、そしてリビングへと戻ってくる。ここをぐるぐると回れるのが、この家の回遊動線です。ピットリビングの24cmある段差はそのままベンチになり、自然と人が集まるリビングに。
和室から見て、リビングは左手。写真正面右の扉を開ければキッチンへと繋がります。階段箪笥がしっかりとおさまるように寸法を設計。無駄なくスペースを配置することで、見た目以上の広さを実現しています。中央のチェッカーガラスがなんともいい雰囲気。
キッチンから見る回遊動線(左)。写真左手奥が和室となり、キッチンを通ってダイニング→リビングと回遊していきます。キッチン脇には奥さまの書斎スペースを作り、学校からの連絡や書類などをきっちり仕分け。リビングから見えないので、生活感が見えにくく、全体がスッキリしました。また、玄関からダイニングに入る扉は南仏の建築を思わせるペールブルー(右)。空間をぎゅっと引き締めます。
回遊動線について後田工務所の後田哲男さんは次のように語ります。「敷地が限られることから、初めから大きな家を建てられないことはわかっていました。しかし、コンパクトでも人や風が動き、快適性や居住性を高めることはできますし、家事もしっかりこなすことができます。その鍵が回遊性でした」。
図面(下)で見てみると、回遊動線は一目瞭然です。茶色で示したダイニング、青で示したリビング、緑で示した和室と、黄色で示したキッチンをぐるぐると人が動きます。
家事は大抵、何かと何かを並行して作業をこなすことが多いもの。スムースな流れ、スピードやリズム感が出来るかどうかで、朝晩のストレスに大きく影響します。特に朝などは家族があちこちを動き回りますので、淀みのない動線が目に見えない快適性の鍵を握ります。
一方、回遊性だけでは、居住性は高まらないと後田さんは考えました。そこで、リビングの壁際、階段下の部分を「おこもりスペース」として確保し、三人がけのソファーを置きました。回遊性とは矛盾するようですが、隠れ家的なスパイスの効いた居場所があることで回遊性が引き立ち、居住性が高まってくるのです。
また、壁をくりぬいてつくる収納スペース「ニッチ」の有効活用も巧み。ダイニングテーブル脇、リビングの壁、そしてキッチンと、痒いところに手が届く絶妙な配置。日常的に使うものがテーブルに散乱することを防ぎますし、壁から飛び出ない収納なので見た目にもスッキリしますし、圧迫感はまったくありません。
もちろん、後田工務所さんの代名詞でもある高断熱もハイレベル。基礎には100mmのスタイロフォーム、壁と床には16Kの高性能グラスウールを120mm、天井にはセルロースファイバーを200mm使用。断熱性能を表すQ値は北海道クラスの1.6W/m2Kを実現しています。冬でも太陽が出ている日は暖房要らず。家の中を動き回る子どもたちは半そでの日も多いとか。
あちこちに作られたニッチのおかげで、ものが散乱せずスッキリと見せてくれます。
気になる夏場の日差しも、ドイツ製のアルミニウム製電動ブラインドによって適度に遮られ、窓を開け放てば、入り込んだ風が回遊動線を動くため、空気の淀みがなく、想像以上に涼しく暮らすことができます。後田哲男さんの得意とする見えない快適性は、人と風が動く「回遊動線」によってもたらされていました。
2階主寝室。ブルーとグレーのグラデーションで落ち着いた雰囲気になっています。
兄弟の暮らす子供部屋にはロフトをつくり、たっぷりと収納できるように。扉も2つで出入りも楽。
シューズクローゼットには、限られた空間を効率よく使うスライド式の中軸回転ドアを採用(左)。開け閉めが楽で場所を取りません。階段上に明かり取りと換気用の窓。小さくても充分に光を届けます(右)。
外壁にはガルバリウム鋼板を横張りに。無機質でスッキリとした縦張りに比べ、横張りは表情が生まれます。設計と施工を担当した後田哲男さん(左)と、お施主の奥さま(左から2番目)。そして後田工務所の女性スタッフ(右側お2人)。女性が活躍しているのも後田工務所さんの特徴です。