建主様ご夫婦は共に、小森工務店の三代目小森測さんと中学の同級生で、ご主人曰く「俺が家を建てる時はお願いね。」と中学時代から約束していたとか。
それから25年。ご夫婦はそれぞれに店舗を構えるようになり、忙しい中でもできるだけ家族の時間をもてるようにと、仕事場の近くに家を建てることにしました。もちろん小森工務店一択で。
敷地は店舗に隣接しているので、できるだけ多くの駐車場を確保をすることが必須条件でした。そしてお忙しいご夫婦の家事動線、子供たちとの生活動線、商業地のど真ん中という敷地特性など課題の数々。果たしてあの約束はどう実現されたのでしょうか。ぜひ最後までご覧ください。
地域と共生する家 小森工務店
本計画地は、福島県いわき市平地区の中心街に位置しており、江戸時代から城下町として発展し、現在においても商業が盛んな過密地域である。街区の構成については、間口約6M、奥行40M~80Mという細長の区画を形成しており、古来よりこの地に暮らす人々は、表通りに店舗を構え、その背後に住処を持つ、食住が一体となった生活様式を有している。
今回の建築主においても、大通りに面する敷地にご夫婦が各店舗を構えており、その背後の空地に住宅を建設するという要望であった。
我々は、建物が過密して建並ぶ細長い敷地に対し、住空間を浮遊させることにより、地域社会と個々の住空間が共生できるような建築を創出させることを目指した。
住空間を8 本の鉄骨柱によって台地から浮遊させ、グランドレベルに町と繋がる外部空間を設け、過密地域における空隙として、様々な要素を受け入れる多様性のある空間とした。この場所は、光や風など、自然環境を享受し、同時に近隣住民や子供達が溜まれる場所であり、また自動車が駐車できるスペースとしても機能する地域に開かれた公共性の高い実用的な空間である。
住空間は、台地から切り離されることにより、光や風を取り入れやすい環境を獲得したこと加え、視界が遠くまで貫ける快適性の高い空間とした。また、家としての軽やかさを表現すべく、1 階は端正な鉄骨造のピロティ空間に対し、2 階は温かみのある木造建築とした。
住空間は、上記の混構造の特異性を空間表現として昇華させるべく、対比的な素材を採用した。内部空間の床は、鉄骨造による人工地盤を表現すべく物質感のあるコンクリート仕上げとし、対比的に天井は、構造体としての杉垂木の架構によって空間全体を包み込むデザインとした。
この建築は、鉄骨、コンクリート、木がそれぞれ持つ、内在する美しさを空間内外で可視化させることにより、建築としての強度を高めつつ、個々の家でありながら、地域社会と共生しうる持続可能なコミュニティ形成の一場所として機能すること願っている。
1.混構造でスペーシーな建築

1階は鉄骨構造で建物を浮かすことで下に自由に使えるスペースを確保し、2階は木造の架構を見せることで建物が軽やかに浮いているように設計されています。

なんとも大胆な思わず見上げたくなる外観。商業地にあるため近隣の音対策も施しています。

駐車場確保が第一条件でしたが、見事にクリア!なんと8台分あります。

玄関アプローチには外壁材として人気のあるレッドシダーをあしらい、お住まいとしての暖かみを添えています。真鍮製の表札やポストなどこだわりのパーツは建主様チョイスで。
2.エントランス~居室~水回り

玄関を入るとLDKへと続く長い廊下。窓側には扉40枚分の連続収納、右側に主寝室や子供部屋、水回りなどが配されています。コンクリート仕上げの床、玄関框の高さ、特注の6連真鍮スイッチなどご夫婦の世界観が存分に表現されています。

こちらは途中にある子供部屋。2人のお子様が将来分けて使うことができるように扉を2つ設置。ここだけは木材の温かみを子供たちに感じてもらえるようにとフローリングを採用しました。

続いてお手洗い。設計打ち合わせ中に「これの黒ないの?」が口癖だったというご主人の好みに合わせて、便器の色は黒を採用。リモコンやペーパーホルダーなども黒で統一されています。

黒好きのご主人に応えるべく、段々と黒いものを事前に調べてから提案するスタイルにシフトしていったと小森さん。洗面所のシンクも勿論ブラックです。

洗面台の奥にはお風呂とランドリースペース。ランドリースペースからファミリークローゼットへと奥で繋がる家事楽動線になっています。

廊下沿いのお部屋の最後は、4人分の衣類を収納しているファミリークローゼット。ぐるっと回遊性があります。

「玄関を入ってからの長い廊下は廊下の機能だけでなく長いカウンターも作ることで収納を確保し、それぞれの場所で靴箱や納戸、子供のおもちゃ入れとして使えるようにしています。外壁面は筋交いをあらわしにすることで自由な窓をとり、筋交いがアイストップや子供の落下防止にもなっています。」と小森社長

長く続く窓には、カーテンの代わりにロールスクリーンを設置。壁をふかして収めたので存在感が消えてスッキリ。
3.多彩な素材で構成されるLDK

長い廊下の終着点はLDK。下の道路からも2階の天井がみえるので、廊下から続く米松の化粧垂木など構造がきれいに見えるよう設計されています。

黒やグレーなど無機質な色味が好みの建主様のセンスが光るLDK。色数を抑えながら、木や真鍮、ドライフラワーなど異素材をミックスして温かみのバランスを整えます。食器棚などの家具もお部屋の配置に合わせてデザインされています。

キッチンと一体になった造作のダイニングテーブル。大勢が集まれる広いLDKもご要望の一つでした。床のコンクリートは施主さんと一緒に塗装したそしたうです。

設計の新妻さん(小森工務店)曰く、勾配天井にしたことで、パース効果による奥行きを感じさせることができる他、垂木が低い位置まで伸びてくることで木の温かみをよりダイレクトに感じることができるのだとか。納得です。

同級生4人組が大集合。左から新妻さん(高校の同級生)、奥様、小森社長、ご主人。冗談を交えながら終始賑やかなムードで、長年に渡る仲の良さと信頼関係を感じさせてくれました。
