【鐵庄工務店】人も暮らしも、生活も守る家を

ー家ナビ編集部の事務所訪その11ー

有限会社 鐵庄工務店 鐵庄一郎さん

和モダンからフレンチカントリー、さらには日本古来の入母屋の家まで。幅広いデザインと確かな性能を併せ持つ住宅を、「現実的なコスト」で届けることに定評のある鐵庄工務店。鐵庄一郎専務に、なぜコストが大事なのかを中心に、家づくりの理念を伺ってきました。

あえて色を持たない

−今日は取材を引き受けていただきありがとうございました。いわき家ナビでも何度も鐵庄工務店の家を紹介させて頂いていますが、デザインが本当に豊富ですよね。

ありがとうございます。本当に色々なテイストの住宅を手がけてきました。最近は住宅のデザインのジャンルも豊富になりましたし情報も増えていますよね。お施主様からも色々なニーズが寄せられます。できるだけお施主様の希望に応えられるように家を作りたいと思っているので、結果的に色々なデザインの住宅を手がけることになりました。鐵庄工務店は私で三代目で、創業したのは祖父になります。もともと日本家屋、長屋や町屋をかなり手がけてきましたが、日本の伝統住宅だけではやはりニーズに応えられないということで、数年前に「casa carina」という南欧風のテイストを取り入れてみたり、色々と試行錯誤を続けています。

ただ、絶対こうでなくてはならない、というこだわりのようなものはなくて、このcasa carinaの家を作りたいとやってきたお施主様が、実際には南欧風のデザインにならなかった、なんてこともありました。というのも、デザインは常に「提案」と結びついているものだと思いますし、その提案は、暮らしのことまで考えなければいけません。なので、私自身はあまり色を持たないようにしようとは思っています。


三代目の鐵庄一郎さん。学生時代はラグビーで心身を鍛えた。

将来も見据えたプランニング

−確かに、デザインや性能を重視すれば、豪勢な家は作れますが、せっかくマイホームを作ったのに、その後の支払いが大変だったら、衣食住の「衣」や「食」を我慢しなければならない。すると、せっかくの「住」がつまらなくなってしまいますよね。

はい。家づくりの仕事は、家を作ることだけではなく、その家で続いていく暮らしのほうにまで目が行き届いていないといけないと考えています。たくさんお金をかけて家を作っても、家計が厳しくなってその家の暮らしが楽しくなくなってしまったら意味がありません。家計が厳しくてメンテナンスもできなくなってしまったら、今度は家族を守る家そのものを守ることができなくなります。ですからコストはとても大きな要素になってきます。

暮らしが続けば家族も年を取ります。最初は「大きな子供部屋が必要だ」と思っていても、個室が必要なのは中学校と高校の6年間くらいです。あとになって子供部屋が空いてしまってかえって寂しくなってしまったとか、年配のお客さんから「2階を無くしたい」なんて相談されることもあります。先日は3畳の子供部屋を提案してきたところです。先々のことやコストを考えると、家のサイズ感というのもとても大切です。

また、先ほどメンテナンスのことを話しましたが、耐久性がないとあとあとメンテナンスに費用がかかって負担になります。ですから、メンテナンスのコストがかからないような材料や工法を提案するようにします。家が大きいとメンテナンスで足場を作ったり材料費も余分にかかってしまいますよね。

−なるほど。メンテナンスのコストまで考えると、家づくりに本当に何が必要か、家をなんのために作るのか、そういう基本的な問いが生まれて、家を作る施主の側にも理解が深まりますね。

工務店の仕事って、お施主さんと向き合って、今だけではなくて将来のことまで考えたうえで提案する仕事だと思っています。だから自分で色を持たないようにしているのかもしれませんね。その意味で、もし私なりのスタイルがあるとすれば、常にお施主様との対話、コミュニケーションのなかにデザインを見つけていくようなスタイルかもしれません。
提案って、ただお施主さんの意見をすべて受け入れるわけではありません。希望は受け止めるけれども、こちらから「これは必要ないかもしれない」ということも提案できないといけません。それを言えるだけの信頼関係を作っておく必要もありますから、最新の住宅事情や工法などを学ばないといけないなと思いますし、伝える力ももっと磨いていかないといけないと思っています。


しっかり作り込んでコストも抑えた「セルフ左官のカントリーハウス

弟子入りで学んだ原点

−敢えてスタイルを持たないという理由がわかりました。他に、鐵さんが家づくりで特に大事にしている理念はありますか?

そうですね、私は親父の跡を継いで大工の仕事やるんだろうなって感じで、当たり前にこの世界に入ってきました。ですから、当初は自分の建築理念のようなものがなかったのかもしれません。原点があるとすれば、高校を卒業後すぐに修行させてもらった、いわきの山田にある油座工務店にいた時期ですかね。結局11年間もやらせてもらいまして。

もともと大工の弟子入りの年季が明けるのはだいたい5年なんです。だけど、たったの5年ですよ。体力だけはあっても技術もないし、ほんと、先輩や親方のいう通りに仕事をこなすのが精一杯。5年間修行したけど、技術や知識がまだまだ足りないという思いが強くてね。しかも、自分の修行が終わった後に、油座工務店では入母屋の住宅を3棟も建てる予定になってたんです。それで、もう少しやらせてくださいって修行の期間を延ばしてもらうことになったんです。

−5年でいいはずが11年も現場にいてしまったと。しかも、その理由が「もっと学びたい、もっと技術を身につけたい」というのが鐵さんらしいですね。普通なら、年季が明けたら実家に帰ってしまいそうなところですよね。

いや、でも本当に「こんなんじゃまだまだダメだ」って思ったんですよ。それで最終的には、その入母屋の住宅の担当になって墨入れまでやらせてもらいました。あの経験が本当に大きかったですね。それでようやく、今まで自分が何が分からなかったのかが分かるようになった。あのまま5年で修行を終わっていたらと思うと逆に怖いです。「納得できるまでやる」ということはその時に学びましたし、それは自分に対しても、お客様に対しても今も変わらないです。そこまで学ばせてくれた油座工務店には本当に感謝しかないですね。

修行を通じて大事だなと思ったのはもう一つあって、それは現場の感覚です。例えば、この辺り(北茨城沿岸部)は夏場になると海から暖かくて湿った霧が出るので湿度の調整が難しいんです。逆転結露というんですが、空気がコンクリートに冷やされて床下がびしょびしょになってしまう。そういうものを感じ取れるかどうかは現場感が大きいんです。そこで感じる気配とか感覚を大事にしたいと思っています。
家づくりは年々進歩します。技術も上がります。けれど、家が建つ場所には自然環境がある。それを踏まえて家を考えないといけないんです。設計をしているときは机上の図面に集中しがちですけど、現場の感覚も含めてしっかりと提案したいんですよ。


鐵さんは高校生から幼児まで3児の父。子育て経験も大いに家づくりの役に立っている。

暮らしを守るために、これからも悩み続ける

−こうして家業を継いで、ある意味で、自分の好きな家を作れるようになったと思うのですが、鐵さんご自身では、理想の家、満足できる家にはどのくらい近づいている感覚ですか?

いやあ、難しいですね。もちろん、お客様の希望通りに家ができればクレームは出ないかもしれませんが、自分の中では葛藤がありますよね。やっぱり、家を作って、お客さんの暮らしが良くならないと意味がありませんから。
そこで改めて思うのは、家ってなんのためにあるかというと、やっぱり暮らしを守るためだと思うんです。風雨、寒暖、地震など自然災害から守るというのはもちろんのこと、家族の幸せを守るっていったほうがいいかな。暮らしを守るっていうのは物理的なことだけじゃないんですよね。だから長い目で見て無理のないような提案とコスト管理を心がけています。
結局、家づくりってのは、工務店の作りたいものを作るんではなくて、暮らしのお役に立つことです。主役はお施主さんですから。すると、お施主さんの数だけ理想の家があって、それを実現するための提案がある。だからもう、正解はあってないようなもので、お施主さんのことを考えて悩み続けるしかないんだと思います。工務店の仕事というのは、その連続なのかもしれません。


これからも修行時代に学んだ現場感覚にこだわり続けたいという。


家づくりは悩みの連続。「納得できるまでやる」と「もっとできたかも」との間でいつも悩み続けているという鐵さん。朴訥な語り口の中に、家づくりに対する「真摯さ」を強く感じました。家計にも、そして環境にも大きな負荷を与えない、現実的な家。鐵庄工務店の門を叩く若いお施主さんが多い理由が、少しわかった気がしました。

文・写真:小松理虔(ヘキレキ舎


会社名:有限会社 鐵庄工務店
所在地:〒319-1711 茨城県北茨城市関南町関本下20-2
代表取締役:鐵 庄吉
TEL:TEL:0293-46-0086
E-mail:tetsusyou_coum@ybb.ne.jp
主な事業内容:住宅の設計および施工
事務所・店舗・商業施設等の設計及び施工
その他、増改築・リフォーム・建物補修等

 

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