いわきの暮らしのコラム
大地とともに生きる美術館
いわき回廊美術館(いわき万本桜プロジェクト)

いわき市を代表する建築には何がありますか?
そんな質問があったら、まず名前を挙げたいのが「いわき回廊美術館」。
世界を代表する現代アート作家、蔡國強さんがデザインし、
いわき万本桜プロジェクトの皆さんがセルフビルドで施工した美術館だ。
壮大な自然、そしてその自然とともに朽ち果てていく芸術が、
美術館の風物詩として多くの市民に愛されている。


いわき市神谷の、美しい里山の風景が広がる一角にいわき回廊美術館はある。
まるで龍が山肌を這うように、100メートル近い回廊が斜面に伸び、
四季折々の美しい風景が視界一杯に広がり、
耳を澄ませば、風の音や鳥の鳴き声が聞こえてくる。
吸い込む空気は季節の香りを運び、体いっぱいにフレッシュな酸素を送り込んでくれる。

 

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山肌を龍が這い上がっていくような形状で、100メートルにわたる回廊が伸びていく。

 

震災後の2011年、この地に9万9千本の桜を植えようと、
いわき万本桜プロジェクトという植林プロジェクトがスタートした。
いわき市在住の志賀忠重さんら、市民が始めたプロジェクトで、
現代アーティストの蔡國強さんがサポートする活動として知られている。
定期的な植樹会や、大小さまざまなイベントが企画され、
現在では知る人ぞ知る「いわき名所」として人気の場所になっている。

震災の次の年に蔡さんがいわきに来てくれてね、
山を案内したときに、蔡さんが「ここに美術館を作るのはどうですか」と言ってきたんです。
普通の美術館は管理や維持費がかかるので、
最初は私も「それは難しいんじゃないか」と言っていたんですが、
蔡さんはめげずに「大きな美術館ではなくて、
山と山を結ぶ回廊の美術館はどうでしょう」と、
その場ですらすらとイメージ図を描いてくれて、
そして、あとから全体のイメージを地図の上に描いたイラストを送ってくれました。
私たちはその通りに作っただけですよ。(代表の志賀忠重さん)

 

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万本桜プロジェクトの代表、志賀忠重さん。いつも気さくに対応して下さる。

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回廊を上った先の小高い丘の上には、蔡さんの作品も展示されている。

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定期的に植林も行われている。ぜひ記念に1本、植えてみてはいかがだろうか。

 

回廊を登っていくと、高台の頂上に「廻光―龍骨」という蔡さん作品が展示されている。
1994年3月にいわき市立美術館で開催された個展『環太平より』のため、
蔡さんに依頼された志賀さんたちが、
いわき市小名浜の海岸から掘り起こした北洋サケマス船をもとに制作された。

この作品は展覧会終了後、市の配慮で小名浜にある三崎公園に設置されていたが、
老朽化が激しかったため、2008年10月に蔡が広島市現代美術館で個展を開く時に
広島に運ばれて「無人の花園」という新たな作品として生まれ変わった。
その後、いったんいわきへと戻り、
2014年の横浜トリエンナーレ2014に出展されるなどして、現在の場所に設置された。

今値段をつけるなら「億」を超えるかもしれない作品なのだが、
屋根もなく雨ざらしの状態で置かれている。
しかし、里山に流れる季節とともに少しずつ風化していくその光景こそ、
訪れる人たちの心に忘れられない印象を与えていく。

 

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蔡さんが1994年に作成した「龍骨」をもとに制作された「廻光―龍骨」。凄まじい存在感を放っている。
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いわき回廊美術館の名物がこちらの空中ブランコ。龍骨のある丘の上にある。
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空に投げ出されるような開放感が味わえる空中ブランコ。ブランコから、この美しい里山の風景を楽しむ。

 

丘の上に立ち、目を閉じ、耳を澄ます。
鳥の鳴く声、虫たちの羽音、そして風の音。自然の音は、これほど贅沢だったのかと気づく。
そして眼下に広がる田畑を眺める。
冬には冬の、夏には夏の美しさがそこに広がる。
この美術館に展示されているのは、里山に続いてきた、あるがままの自然の美しさである。
ここで朽ち果てていくのなら、この龍骨も本望ではないだろうか。

取材・文/小松理虔

 

○スポット情報○

いわき回廊美術館
場所:〒970-8021 いわき市中神谷地曾作地内
いわき万本桜プロジェクト事務局 http://www.siga.co.jp/iwakicherry/projectmenu.html

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