いわきの暮らしのコラム
食とは土と向き合うこと(前編)
カノヴァ・アズーロ 正木 法文さん、正木 真実さん

いわき市平作町にオープンして今年で14年目になるイタリア料理店「カノヴァアズーロ」。シンプルで滋味深い料理と、料理にぴったりのヴァンナチュール(自然ワイン)を取り揃え、本場イタリアの食文化を伝えています。

アズーロの大きな特徴の1つが、生産者の想いやこだわりも味に込め、いわきの食材で作るイタリア料理を提案していること。そこで今回は、カノヴァアズーロの正木法文さん、真実さんのお2人に、「地域に根付いた食」とは一体どのようなものなのかを伺ってきました。なぜいわきでイタリア料理なのか。料理に込められた想いを、前後半2回に分けてお送りしていきます。

DSC_4238その日入った新鮮な素材を使って料理を提供しているアズーロ。いわき市平の人気店だ。

 

いわき市平の中心部から少し離れた作町の一角。正木法文さん、真実さんの夫婦によって、イタリア料理店カノヴァアズーロは営まれています。オープンしたのは、市内に本格的なイタリア料理店がまだ多くなかった2003年。それから足掛け14年目。「本格イタリア料理」などと銘打つわけでもなく、片意地張らず、15ある席で、こじんまりと訪れる人たちの胃袋と心を満たしてきた、そんな料理店です。

料理をメインで作るのは旦那さんの法文さん。いつも調理に忙しいからか、客席に出て来ておしゃべりするイメージではありません。いつお店を訪れても、せっせと料理を作ってらっしゃるイメージ。料理への愛情が、その表情や手つきから滲み出ています。料理はどれも滋味深く、素材の味が充分に活かされていて、あれ、野菜ってこんなにおいしかったっけな? なんて思ってしまう味。いつの間にか夜が更けて、代行タクシーを呼ぶのがいつも遅くなってしまうのです。

2003年の3月にオープンして、なんていうのかなあ、イタリアの料理というものだけじゃなくて、イタリア人の食に対する考え方とか楽しみ方、つまりイタリアの食文化をいわきに皆さんにも知ってもらいたいと思ってお店をやってきました。

オープンした時は、いわきでイタリア料理といえばパスタとピッツァという時代でしたけど、実際にはスパゲッティを食べない地域もあれば、トマトを使わない料理もたくさんあるんですね。もちろんイタリア料理はその2つだけではありませんし、もっと多様な料理、多様な楽しみ方があります。それをいわきでどうわかってもらうのか。そこがすごく大変でした。

今までは、正直悩みながらでしたね。料理のベースをどれだけ広げられるかとか、新しいものをどれだけ取り入れられるかとか、そんなことを追い求めてやってきました。他の人がやってないものをやろうみたいな。でも、ようやく最近になって考えがシンプルになってきました。そもそもの原点に戻ろうと思ってるんです。(法文さん)

DSC_4208シェフの正木法文さん。本場イタリア・ローマで培ったイタリア料理の魂をいわきに届けている。

 

—ローマで見つけた、イタリア料理の原点

法文さんの語る「原点」。それは、イタリア料理のことなど何も知らなかった20代の頃、料理を学ぶため、勢いだけで訪れたイタリア、ローマでの暮らしに遡ります。もともと建築の仕事をしていた正木さん。たまたま仕事を担当したイタリア料理店の店主に影響を受け、イタリア料理に開眼。なんとその後、その店主のツテを辿ってローマのレストランで働くべく渡伊してしまったそうです。

東京の世田谷にある、とあるイタリア料理店の店舗の仕事を担当していたときなんですけどね、そこの店主をしていた方に影響を受けて。オリーブオイルとかパルマハムとかパルメジャーノチーズとか、聞き慣れない言葉をたくさん教えられて、その時はぼくはまだ26歳くらい、おじさんは35歳くらいでね、それで急激にイタリアに魅かれて、おじさんの知人のツテを辿って、イタリアのローマに行っちゃったんです。

言葉も何もわからないですし、何しろイタリア料理も初めてですから。レストランの下の倉庫みたいなところに寝床を借りて、ねずみと一緒でしたね。ローマの下町のレストランで、ちょっとした手伝いしかできなくて、当時ビザの関係で3ケ月しかいられなくて帰ってきてしまったけど、本当に貴重な3ケ月でした。そこで、彼らの食に対する考え方を学ぶことができたと思っています。

できるだけ素材を活かす。それがイタリア料理の基本です。だから、ソースなどで味を足していくフランス料理とはそれぞれに楽しみ方が異なりますよね。イタリア人は本当に自分たちの地元の料理が好きなんです。外食しても『マンマの味が一番だ』って言いますから。彼らはそういう人。シンプルに味わって食事を楽しむ。それをいわきで伝えたいと思ったんですね。

DSC_4309

ムール貝のヴェルモット蒸し(左)/冬野菜のグリルマリネ(右)

 

—イタリア人の食の向き合い方

ローマで経験したことを活かしたいと、いわきに帰国するとすぐ、中央台にあった「トラットリア ダンジェロ」というイタリアレストランで働き始めた正木さん。そこで、妻の真実さんと出会いました。その真実さんも、物心ついた時から料理が好きで、いつかは飲食店を営んでみたいと考えていたそうです。

私たち2人とも、そのダンジェロっていうレストランで働いていて。会ったときから正木さんは自分のお店の話をしていました。私も学生のころからずっと自分のお店を持ちたいなって思っていたので、正木さんがお店を始めると言うので結婚しました(笑)。ご縁ですね。

そのダンジェロにはシチリア人のシェフがいて、彼からも色々なことを教えられました。そもそもイタリアって、ずっと長くヨーロッパでの戦争の歴史が続いて、その結果できた国でもあるんです。特にシチリアは地中海の真ん中にあるので、特に戦争に翻弄されたんですね。だからこそシチリアの人たちは自分が生まれ育った土地を大事にしていて、自分たちの料理や食文化を誇りに思っていて。そういう食との向き合い方、すごくいいなあって思っていました。(真実さん)

そう。シチリアは色々他国から攻められて、アフリカやアラブの影響も少し入ってるので、あそこだけは独特の文化があるんですね。もともと島でしょう、だから海のものは新鮮でうまい。それからシチリアレモン、ハーブ、山羊。ミントを使う味付けも独特です。そして彼らは誇りをもってシチリア料理が世界で一番うまいって言うんですね。彼らの食に対する考え方、そして地元への誇り、本当に素晴らしいと思います。

牛ハチノスとうずら豆のトスカーナ風煮込み

 

—イタリアの文化を根付かせたい

アズーロがオープンしてからずっと、そのシチリア人と同じように、法文さんも真実さんも地元の食材に自信と愛情を持ち、いわきの野菜を使い続けてきました。もちろん、いわき産以外にも、おいしく栄養のある野菜を見つけ、生産者との関わりができるとその都度仕入れ、料理に活かしています。今でこそ、そうしたスタイルが定着しつつありますが、過去は苦労の連続だったそうです。

正直、イタリア料理店を営むなら、少し規模を大きくしたり、パスタランチなどもしたほうがいいかもしれません。ただ、私たちみたいな小さなお店だからこそできることがあるんじゃないかって。私たちが取り組みたかったのは、いわきの食文化をもっと豊かにして、生産者と切磋琢磨できるような関係を作ること。原発事故を経験したこともあって、改めてその思いが強くなりました。

オープン当初は、食材や料理についてしっかり説明して、楽しみ方を知ってもらうところからやってきました。特にイタリアの野菜は、土壌のミネラル分が強いので味が濃いんですね。同じように、店でご用意している野菜も味が強いものが多いので、野菜本来の味を楽しむような味つけになります。ただ、そういう味付けに慣れてない方もいらっしゃる。楽しみ方はそのままで、どうやったら受け入れてもらえるか、今でも悩みの連続ですよ。

食材を揃えるのも難しかったですね。イタリア料理とは言っても、各地方の郷土料理の集まりがイタリア料理なので、食材も豊富ですし、集めるのが大変でした。今ではだいぶお店のスタイルも定着して、市場などで買える食材も増えてきました。やっぱり形だけじゃなくて文化のところまで伝えるには10年くらいかかるものなんですね。

DSC_4265これまでの14年間は悩みの連続だったと語るシェフの法文さん。

huu

いつもニコニコと接客してくれる真実さん(左)。パルマ産生ハム(右)は真実さんがその場でカットして提供してくれる。

 

オープンから14年。ようやくいわきに根づき出し、生産者とのつながりもできてきた今、法文さんと真実さんにとって、このいわきは、そしていわきの食は、どのように映っているのでしょう。

店を始めたときから、生産者と繋がりたいという思いがありました。それも少しずつ形になってきたと思っています。いわきオリーブプロジェクトの木田源泰さん、山さと農園の佐藤耕士さん、養蜂家の安藤利雄さん、様々な方たちと繋がることができましたし、こんな料理を作りたいんだっていう私たちの思いを理解した上で提案してもらえるようになりました。

原発事故があって、とても辛いことがありましたけど、震災前よりも、生産者の顔が見えるようになったと思うんです。自分の作りたい料理のこと、野菜のこと、面と向かって色々なことを話せるようになった気がします。それに自分自身も、原発事故があったことで、地のものを食べることとか、土そのものこととか、改めて考える機会をもらったと思ってます。

さっき、郷土料理の集合体がイタリア料理だって話をしましたけどもね、各地で気質が違ったり、できる野菜も違うっていうのは、実は日本もよく似ていると思うんですよ。それに、日本の料理も『素材を活かす』ことにとことんこだわりますからね。イタリアと日本は、似ているところがある。

いわきは魅力的な場所ですよ。海もあって山もあって。震災後も、新しいことに目覚めていろいろな野菜を作る生産者が増えました。とてもいいことだと思います。もっと色んな可能性があると思ってるんですよ。例えば、いわきでレモンを作ったらいいんじゃないかと思うんですね。シチリアも、レモンとハーブとオリーブと魚ですから。いわきは、日本のシチリアになるんじゃないかな(笑)。

まだまだ、私たちも含めて生産者もそれぞれ完成はされてなくて、まだ発展途上だと思います。けど、お互いとてもいい刺激を受け合ってるような気がします。ワインを仕入れている、植田の古川クラ酒店の丹さんを中心に、飲食店同士の横の連携もできてきました。いわきの食は、これからもっと楽しくなっていくと思います。私たちも、その場にいられたら幸せですね。

開店前の仕込みの時間にインタビューに応えてくれたお二人。普段は物静かそうにみえる法文さんも、料理に対する思いをじっくりと語って下さいました。そこには、故郷いわきへの愛情と、生産者への敬意がありました。

カノヴァアズーロへ行くと、黒板にその日の野菜の産地が書かれています。それを見ながら、いわきのこと、そしていわきの食のこと、正木さんたちと語りながら、おいしい料理に舌鼓を打って下さい。私たちの知らなかったいわきのおいしさが、きっと見つかるはずです。

次回は、正木さんご夫婦の「愛」のお話。ぜひまたご覧下さい。

※後編はこちらからどうぞ。

○店舗情報○

カノヴァアズーロ
住所:〒970-8026 福島県いわき市平字作町2丁目1−13 作町ビル 1F
電話:0246-21-5576

Google requires an API key to embed Google Maps. Enter your key in your Shortcodes option page under the "Maps" tab.