いわきの暮らしのコラム
食とは土と向き合うこと(後編)
カノヴァ・アズーロ 正木 法文さん、正木 真実さん

いわき市平作町にオープンして今年で14年目になるイタリア料理店「カノヴァアズーロ」。シンプルで滋味深い料理と、料理にぴったりのヴァンナチュール(自然ワイン)を取り揃え、本場イタリアの食文化を伝えています。そのカノヴァアズーロのシェフ、正木法文さんと真実さんのお二人へのインタビュー。今回は後編です。
※前編はこちらからどうぞ。

お二人に語って頂いたのは「愛」について。地元への愛。食材への愛。そしてイタリア料理に対する愛。法文さんと真実さんのお二人がどんな心持ちでイタリア料理を私たちに提供しているのか、一番の根っこのところをお話し頂きました。

DSC_4263その日に手に入った新鮮素材のそのままのおいしさを味わうことができる。

 

—ヴァン・ナチュールに魅せられて

今年でオープン14年目になるカノヴァアズーロ。2011年に原発事故を経験し、「食べることについて一から考え直させられた」と語る真実さんたちが一昨年からメニューに取り入れたのが「ヴァン・ナチュール」です。ヴァン・ナチュールとは「自然ワイン」とも呼ばれ、亜硫酸塩を無添加あるいは最低限に抑え、自然発酵で仕上げるワインのこと。

昨今じわじわと人気を集めており、イタリアやフランス、オーストラリアなどの小規模醸造家の醸したワインが少しずつ輸入されるようになってきました。ぶどうの出来不出来を調整するのではなく、そのまま味わうというもので、昨年から、アズーロもお店のワインをすべてヴァン・ナチュールをメインに切り替えました。大きな決断です。

植田にある古川クラ酒店さんに出会ってから、ワインに対する考え方が変わりましたね。古川クラ酒店さんはナチュールを数多く仕入れてらっしゃる酒屋さんなんですけど、そのお店のオーナーの丹さんにナチュールのイベントに誘われて、そこでドキドキワクワクして帰ってきて、それが決め手でしたね。腹をくくって、ナチュールを柱に据えようと。それが2015年の11月です。

もとも、2014年早々にフリーペーパーで丹さんの記事を読んで、2014年6月に初めてお店に伺って、その年からアズーロでナチュールの会をお願いしています。2015年には、いわきでの飲食店合同でナチュールの催しを開いたり、小名浜にある飲食店のMUMEさんのところでインポーターさん、造り手さんが来日したときにもお手伝いさせて頂いたり。ナチュールをどう提供すれば良いかということを1年以上考えましたね。

ナチュールって決して安くないし、味も安定してません。葡萄の栽培は自然相手の仕事なのでハプニングの連続だそうです。学校よりも地元の篤農家さんから学ぶ方が多く、そうして一年一年進化し、美味しくなってゆく。目の前の土地とぶどうに向き合おうっていう造り手さんの思いが伝わってきて、それで、やろうと決めました。

ナチュールの造り手さんはそこに生息する生き物、植物がもたらす循環、目に見えない微生物たち、それらすべてと向き合い、愛し、葡萄を栽培しています。生産者の顔がしっかり見えてくるんですね。(真実さん)

 

DSC_4299現在はヴァン・ナチュールに絞ったワインラインナップ。お料理に合う1杯を提案してくれる。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA OLYMPUS DIGITAL CAMERA冬野菜とホウボウのレモンドレッシング(左)/スパゲッティ プッタネスカ(右)

 

—素材と向き合い、土と向き合う

法文さんも真実さんも、ナチュールに出会って「店作りがシンプルになった」といいます。色々なメニューや調理法を取り入れ、様々に試行錯誤し、なんとかいわきにイタリアの食文化を根付かせたいと奮闘してきた13年間。1本の源流がたくさんの支流になり、そしてまた最後には1つの流れに戻って海に注ぐように、お店のスタイルが絞られ、考え方も店作りもシンプルになったのだそうです。

もともと私自身、料理に手をかけようとはあまり思っていないんです。できるだけその素材を活かす、それがイタリア料理の基本なんですね。私は何も知らない状態でイタリア料理を学んだので、余計にそう思うのかもしれません。ナチュールもそうだけど、とことん、土地や環境、素材に向き合うことだと思います。

イタリアの土ってミネラル分が豊富で、おまけに水も硬いから、野菜のミネラル分が強くて、味が濃いんですね。だから塩とオリーブオイルだけ、みたいな調味料でもしっかり料理を楽しめる。ぶどうも同じで、ぶどう本来の味っていうのかな、余計なものを足さなくても自然発酵で充分おいしいワインになるんです。でもそれって一番贅沢じゃないですか。

思い出深い料理があるんです。豚肉のロースト。ローズマリーでローストしただけで、それとその豚の脂でローストしたじゃがいも。あれは忘れられないなあ。特にじゃがいも。塩とローズマリーだけしか使ってないのに、豚の脂の風味ものってきて、ほんとうまかった。塩は岩塩でね、昔からその土地にあるもの。日本の豚肉ではそうはいかないと思います。そういうシンプルな調理で充分おいしい。それは土のミネラルがあるからなんですよ。

だから、イタリア料理は『土の料理』というか、野菜もぶどうも土の味がするんです。ミネラルが豊富なんです。だから、ただ焼いただけとか、塩だけとか、そういうのが生まれるんじゃないかな。味を整えるんじゃなくて、食材ありき。それは前からわかっていたけど、なかなか実践できずにいて。でもようやくですね、最近になって、やっぱりそれでいいんだって思えるようになりました。原点に戻るっていうか。(法文さん)

OLYMPUS DIGITAL CAMERA上州牛いちぼグリル。肉の旨味を存分に味わえる。

DSC_4346見た目にも美しいお料理。そしてその旨味をワインで洗い流す愉悦。

DSC_4320飲食店をやる上でもっとも重要なのが「食材や料理への愛情」だと言う正木さんご夫婦。

 

—料理でもっとも大切なこと、それは「愛」

そんな法文さんの思いを汲み取って、真実さんは丁寧にお店のメニューボードを書き込みます。料理だけではなく、生産者の名前や野菜の名前も毎日書き換え、お客に聞かれれば1つひとつ素材について、素材に込められた想いについて説明をしてくれます。それは「下手な料理を作って素材を台無しにはできないから」と真実さん。素材に対する感謝が、そこにはありました。

私が思うのは、やっぱり野菜にしてもお肉にしても、命を頂いているってことなんだと思います。原発事故以降は特に強く考えるようになりました。皆さん本当に苦労して育ててらっしゃいます。だから、その想いを受け取って、お客様に提供しなくちゃって。食材に対する思いは私は人一倍ありますね。とにかく食材愛です私は。

そうそう(笑)。食材に対して神経質くらいですよ彼女は。ぼくはそこまで食材に対してのこだわりはないんだけど、でもね、やっぱり愛ってすごく大事で、忙しくやってると、どうしても料理に向き合えなくなって、ダメだなってなりますよ。しっかり素材と向き合ってこそ。

食材やメニュー、アズーロで向き合うものに対して気持ちが入っていない時に「愛が足りない」と激昂しますね(笑)。家族や友人、お店とお客様。人だけではなく、それぞれが向き合うできごと。そこで繋がるのは心だと私は思います。

ぼくはね、技術はないけれど、気持ちだけはありますよ。イタリアに対する愛かな。イタリアンしか知らないからなのかもしれませんね。だからその分、イタリアらしさがあるのかもしれない。自分で料理作ってても、あれ? これはイタリアのと違うなって思う。そういうとき、あのときに覚えた味の記憶とか、町の雰囲気とかが浮かぶんです。知らないから、他の料理を。それしかないんで、そこに戻っちゃう。でもそれでいいんじゃないかなって、最近思うようになりました。

正木さんは「イタリア愛」ですね。本人は紆余曲折や試行錯誤と言うけれど、筋としては変わってない。料理を作ることに対する愛情、お客様に美味しく食して頂こうという気持ちだけは変わっていないのかな。

なんか、イタリア人に怒られそうな気がするんですよ。調味料足したり、わざと色を増やしてみたり、そういう欲が出てくるとイタリア人に怒られるなって。足したいけれど、引き算する。それがイタリア料理なんです。ぼくはそれしか知らないから、それしかできない。理想は、ちゃんとしたものをちゃんと出す。それで唯一無二の存在いられること、ですかね。

愛がたっぷり詰まったお料理。この日頂いたお野菜も生ハムも、ハチノスの煮込みもホウボウのカルパッチョも、味付けはシンプルで素材の味がしっかり残り、だからこそワインが進んでおしゃべりも楽しくて、やっぱり気づけば代行を呼ぶ時間になってしまう。アズーロで過ごす時間が、ゆったりしているようでとても速いのは、一瞬一瞬が濃密だからなのだと思います。

アズーロでは、今年から、毎週金曜日は真実さんがマスターを勤め、「蒼/ao」という新しいコンセプトで、ヴァンナチュールを中心に楽しもうという新しいサービスが始まる予定。その土地の風土や造り手さんの顔を思い浮かべながら、そして、真実さんとのおしゃべりを楽しみながら、ぜひヴァン・ナチュールを味わってみて下さい。

 

○店舗情報○

カノヴァアズーロ
住所:〒970-8026 福島県いわき市平字作町2丁目1−13 作町ビル 1F
電話:0246-21-5576

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