佐藤大建築事務所(旧:KD設計)というと、設計力を駆使したモダンで軽やかな家を連想される方も多いと思いますが、今回は「和の住まい」。
「数寄屋建築」への新しい解釈と挑戦。ぜひご覧ください。(※数寄屋とは→homify)
【数寄屋建築と現場至上主義】 一級建築士 佐藤大
震災前は、既存家屋の2階部分を減築して平屋にリフォームする計画をしていたが、震災を機に改築することとなった。改築プランの策定はスムーズだったのだが、それはリフォームの設計打ち合わせをしていたので、施主の思い描く青写真を共有できていたし、良好なコミュニケーションがとれていたからだと思う。また、細かな部分の仕上げや仕様についても、すべて一任させてもらえたことで、コンセプトがぶれずに良かったと思う。
基本コンセプトの根底にあったものは、「数寄屋建築」に対する敬意だ。でも、それらがコンセプト全体を占有することを望んではいなかった。数寄屋建築は、装飾性のある材料は極力排除され、 空間を司る材料の質感と、その構成のバランスによって成り立っているものと解釈している。そのようなことを意識しつつ設計を進めた訳だが、完成した設計図面も極端に言い換えれば、机上の空論でしかない。
例えば、鴨居の見附(垂直面に見えている面)の寸法一寸(30mm)か、一寸一分(33mm)にする かも、設計図面では一寸だが、最終決定現場で行う。現場に行かなければ、図面上で見えてこない部分が多くあるし、気づかされることも多々ある。特に寸法に気遣う数寄屋建築では、現場に足繁く通わなければ実際スケール感や臨場感を感じ得ないし、「素材美・寸法美」というところに神経を研ぎ澄ますことができないのではないだろうか。現場で決定する要素が多くあるが、 それらの選択は設計者独断で決められることでなく、まず職人と向き合って選択肢を考える ところから始められる。
建築行為を実現するには、その道の職人がいなけれ当然成し得ない。我々設計者や現場監 督には、職人への敬意を払いつつそのかたくなな懐に如何にして入り込むかも、我の々スキルとし て必要だろう。とは言いつつ、頑固一徹で強面な職人さんはさほど見当たらない・・・今回の住宅では 、普段あまり用いない素材や色も積極的に取り入れたので、職人と色々と談義するきっかけともなった。現場で使う材料は、当然のことだが全てが職人たちの手に委られるし、職人たちにとっ ても初めて扱う材料や仕上げ方だったりすることもある。わたしたち設計者は、その仕上がりの想像はできるが具現化はできない。この住宅では、左官職人に櫛引の扇型模様をお願いした部分があるが、塗り本番に向けてのシュミレーションや練習が功を奏した。こちらも職人に無理難題を依頼することもあるが、職人の技能向上につながれば嬉しく思う。こと、今回の住宅では、職人にとっても、設 計者にとっても初挑戦が多く、ある意味新鮮な現場でもあった。
一つの建物に携わる毎に、その都度学ぶことが沢山あるが、今回はこれまでの自分の設計思想を揺るがす大きな転換点になったと思う。
1.大屋根の外観
「瓦屋根が美しく見えるように特に気を配りました。」と佐藤大さん。入母屋と切妻の日本瓦が、コの字に配した建物を美しく包みます。
思いが詰まった植栽や石を全て新しい庭に収めてくれるように造園会社に依頼しました。配置も見事で、訪れる方々にとても好評です。
雨水は瓦を伝い、大きく張り出した軒先から直接地中に染み込むよう、白玉砂利の下に排水設計。
2.洗い出し仕上げの土間玄関
那智黒石洗い出し仕上げの三和土と黒の壁が印象的な玄関土間。奥が履物収納。
勾配天井が中庭へ視線を誘導。糸雨越しの中庭も眺めてみたくなります。
「玄関を大事にしたい」。たくさんのお客様がいらしても、くつろげるような空間にしたいというご主人の思いが詰まった玄関です。
玄関から室内側を。舞台のような圧倒的な広がり。大勢のお客様との語らいも弾みます。
3.居間
リビングのソファーとテーブルは奥様が時間をかけて選んだこだわりの家具。
土間玄関側から居間・台所方向。ガラスの食器飾りやテレビの収納棚などの造作家具も美しい仕上がり。
4.お母様の和の暮らし
中庭の脇を通ってお母様の居室スペースへ。
お母様用玄関。桧錆丸太の床柱や竹小舞の助枝窓など数寄屋の粋を表現した造り。
廊下の壁は珪藻土の扇型櫛引鏝仕上げ。
5.水回りも美しく
「今回は『和の品格』も意識しました。数寄屋の美しい佇まいを生活に落とし込みながら、使い勝手もよくなければならない。バランスに気をつけました。」