職人の技術でつくるのは、安らぎ

ー家ナビ編集部の会社訪問その5ー

(有)江尻建築 江尻茂樹さん

東日本大震災のあと、市内各地で新しい住宅の建築ラッシュに湧いたいわき市。新築需要がひっきりなしにあるなか、頑なに既存住宅の復旧・修繕に務めてきた工務店がありました。今回紹介する江尻建築は震災後どんな思いで仕事をしてきたのでしょうか。また、木材や漆喰など自然素材での家づくりに一貫してこだわり、手間をかけて家をつくり続けるその思いとは。一切の手抜きを許さない職人集団を率いる、代表取締役の江尻茂樹さんに、家づくりの極意を伺いました。
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「震災後はお客様の生活復旧を第一に」

―東日本大震災後、市内各地で新しい住宅の建築ラッシュに湧いています。お仕事も忙しいのではありませんか?

そうですね、いわき市内では震災以来バブルとも言えるほど住宅の建設が続いています。しかし私たちは、震災後の2年くらいは新築はやってきませんでした。弊社で家を建てて下さった方々の修繕を優先していました。私どもがこれまでに関わらせて頂いた住宅は1,000棟以上あります。いくら家を必要としている人が多いと言っても、困っているこれまでのお客様を放っておくことは出来ませんよね。暮らしていた家に何かトラブルがあれば、まずはそれを直すことが我々の仕事です。

新しいお客様をお待たせしてしまった部分もありますが、家族の安心の場である家に不安があってはなりませんから、そちらを優先させて頂きました。

そんな時期を通して、地域の皆様からの信用と信頼は私達のかけがえのない財産である、ということに改めて気付かされました。これからもなんでも気兼ねなく相談できる工務店でありたいですね。8
インタビューにも真摯に答えて下さった江尻茂樹社長

 

「ウォーターサーバーに込めた思い」

―江尻さんといえば、やはり自然素材にこだわった家というイメージがあります。今のようなスタイルになったのは、どのような経緯があったのですか?

実は、今のように自然素材にこだわった家づくりを最初からやっていたわけではないんです。10年ほど前までは、大手のハウスメーカーに追いつけ追い越せというか、同じような方向性でやってきました。ところがある日、大工さんから「このままだったら木が見える部分もなくなるし、和室もないし、大工はいなくてもいいんじゃない?」なんてことをポロっと言われましてね。

その時でした、考えが変わったのは。これからは、もっと大工さんの技術を活かせる家にしようと。私たちの大工の中には、中卒で大工になり一級建築士の免許まで取得したような、高い技術と知識を有する職人がいます。彼らの技術を活かせる場を作ることが、社長の私の役割だと思ったんです。それで、木をふんだんに使った自然素材の家になりました。

建設現場にウォーターサーバーを持ち込んでいるのも、職人たちに気持ちよく仕事をしてもらい、技術を発揮してもらいたいからです。現場はホコリだらけだし冷暖房もありません。そういう環境なのに、外の仮設水道から汲んでくる水を飲ませるのは優しくありませんよね。私は、職人に対する優しさが、最終的には家つくりに対する優しさにもなると思っているんです。

心を込めた家づくり、と口で言うのは簡単ですが、現場の職人が大事にされ、その職人たちが心を込めて作れば、施主さんに対して「この家を大切に家を作って下さい」というメッセージにもなると思っています。そうなって初めて、長く愛される家になるのではないでしょうか。
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江尻建築の現場には常時設置されているウォーターサーバー

 

「商社マンから大工修行へ」

—江尻さんの職人さんたちに対する敬意が感じられるお話ですね。一方、江尻さんは以前は住宅建築とは無縁のお仕事をされていたと聞いています。これまでのキャリアについて、会社の成り立ちなども合わせてお聞かせ下さい。

江尻建築は、会社組織を立ち上げたのは私の父になりまして、今年で52年目になりますが、家づくりという意味では、私の曾祖父から大工をしていますので、私で4代目ということになります。でも、もともとは私は家業を継ぐつもりはなかったんですよ。大学でも経済を勉強していましたしね。社会に出て一番最初には商社マンをしていました。

商社というのは、世の中の物の流れに対して常にアンテナを高くしながら、情報をもとに仕事を見つけ、販売までの道筋を考えるという仕事です。家づくりというとかたくなに「技術」にこだわるイメージもありますが、技術を残すには、社会に対して聞く耳を持ちつつ、様々な情報を取り入れ、それを解釈しながら家づくりに取り入かなければなりません。その意味では、商社時代に学んだことが生きていますね。

とはいえ、やはり大工は大工の技術あってこそ。私はスタートが遅かったので、「人が3年かかるなら自分は1年半で覚えよう」という気持ちで努力してきたつもりです。技術が身に付いていなければ、現場に指示も出せないし、どのくらいの予算、工期がかかるかも読み取れません。現場の大工さんからも信用されませんからね。

私が子どもの頃からいる職人さんたちですから気心は知れています。ですが、職人さんは技術に対して非常に厳しい面があります。跡継ぎだからといっても受け入れてくれません。いかに受け入れてもらえるか、自分なりに努力して、大工さんたちと話をして相談をして、そして悩んで、家づくりに生かしてきました。そのことが職人さんたちとの信頼関係に繋がっていると思っています。
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江尻建築には現在6名の職人がいる

 

「日々学び、継承する」

―技術のある職人さんの数の減少や後継者問題なども、建設業界では叫ばれています。技術の継承という意味で、心がけていることはありますか?

1つはリフォームにも力を入れていることでしょうか。というのも、古い住宅をリフォームさせて頂くことで、日本古来の技術を学んだり、家を修繕する技術を蓄積することができるからです。特に東日本大震災後には、住宅の修繕の問い合わせが増えました。そこで得たノウハウが新築にも活かされてきているように思います。

やはり、住宅というのは、月日が経たないと「状態がこう変わるのか」ということがわかりません。台所の床下はこうなるだろう、お風呂場はこうなっているだろうということは、壊してみなければわかりませんし、壊してみることで、あらかじめ対策が見えてくるんです。

全国的に、大工の高齢化も問題になっています。あと10年もすると第一線の大工さんが半分近くに減ってしまうと言われています。すると、さらにリフォームが難しくなったり、手間のかかる工法の家が少なくなってしまう。工務店に入りたいと言う若者が生まれるような魅力的な大工仕事、環境づくりは、さらに力を入れていきたいと考えています。3七海棟梁は一級建築士有資格者でもある

 

「人は自然由来のものに無意識に心地よさを感じる

—次は江尻さんの「家」についてお伺いします。江尻さんにとって住宅とはどのような存在なのでしょうか。家に求められる機能や性質についてお考えをお聞かせ下さい。

家というのは、「心を安らぐための場所」であることが一番です。家に帰ってきてほっとする、家の中で安らげる、こういう家でありたいと思っています。人間ですから、自然由来のものと、化学製品を並べたら、やはり自然由来のものに無意識に心地よさを感じます。木材をふんだんに使い、漆喰や和紙の壁紙を使ったりするのも、すべて「安らぎ」のためです。

今私たちのいるモデルハウスも、たくさんの木材を使っていますが、ここに来たお客様の多くがスリッパを履かずに入ってきますし、「裸足になっていいですか?」なんて言う方もいらっしゃいます。子どもたちは床で寝転がったり柱をずっと触っていたり。居心地とは、体と心、その両方で感じて初めて成り立つものなんだと、お客様の反応を見て改めて思いますね。

面白いことに弊社のお客様には少し特徴があって、職業的なものでいうと、公的機関に勤める方や、技術職、ものづくりに関わるような方が多いんです。皆さん、社内で集中して仕事されたり、工場で根を詰めて仕事に打ち込むような方なんですね。ずっと根を詰めて仕事しているような方だからこそ、家に帰ってきたら「ほっ」とできる安らぎを求めるのかもしれません。

—それは興味深い話ですね。集中して働き、家ではとことんくつろぎたいという方に選ばれているというのは、それだけ安らぎを感じているからでしょう。満足の高い家をつくるため、お施主さんとのコミュニケーションについて注意していることはありますか?

お客様との打ち合わせの際に、ヒアリングシートを使って、家族構成、朝から夜までの生活スタイルなどを書き込んで頂いています。私たちがお客様のスタイルや好みを理解するために書いて頂くものではありますが、シートを書くことで、お客様自身も自分の生活スタイルを客観的に見直すことができ、書いていくうちに、こんなことがしたい、これもしてみたいと、楽しみながらシートを記入して下さっています。

このシートは、家具や雑貨類などを把握するためにも書いてもらいます。せっかく買った婚礼家具が入らなかったなんてことになったら大変ですから、私たちのほうで、施主さんの家具のサイズなど、すべて寸法を確認させてもらっています。そのようなプロセスを経ることで、施主さんも家づくりに対して具体的にイメージできるようになってきます。家を買うのではなく、共に作る、家づくりに参加するという関係になっていくんです。

一方、シートや図面でガチガチに固めた家がいいわけではなく、実際には、施工中に細かな調整が必要になってきます。できあがっていくとお客さんも考えが変わってきますからね。そういったところで臨機応変に対応できるようにしています。その分、私から現場に「なんとかしてくれ」と頭を下げることが多いですが、職人の技術のおかげで、そういう対応が可能になります。
11お客様とのコミュニケーションの元となるヒアリングシート

 

「人生の半分は家の中で過ごします」

―江尻さんが届けたい住まいと、お施主さんの「家では安らぎたい」というニーズが、本当に見事にマッチしているんですね。最後に、これから家づくりを考えている方にメッセージなどはありますか?

家というのは、建てる方が住まいに何を求めるかで変わってきます。家のなかで過ごす時間を増やしたい人と、家は寝泊まりのためでよいと考える人では、できあがる家は違います。ですから家づくりをするときには、家に何を求めるのかを、お施主さんのほうでじっくりと考えてもらいたいと思っています。

やはり一生に一度の経験になる方がほとんどだと思いますが、だからこそじっくりと向き合い、これからどんな人生にしていきたいのかを考え、その上で、もし、家のなかで過ごす時間が長いほうがいいなという方がいたら、ぜひお声がけ頂ければと思います。寝ている時間も入れれば、人生の半分は家に暮らすわけですから、やはり、心安らぐ家が一番だと思います。
13お住いに関することなら何でもご相談下さい、と江尻社長(「雨楽な家」モデルルームにて)

 

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会社名:有限会社 江尻建築
所在地:〒970-8025 いわき市平南白土2-8-6
代表取締役:江尻 茂樹
TEL:0246-21-5003 / FAX:0246-22-8233
E-mail:eziken@rose.ocn.ne.jp
主な事業内容:住宅の設計および施工
事務所・店舗・商業施設等の設計及び施工
その他、増改築・リフォーム・建物補修等

※常設モデルルーム「雨楽な家」を予約制にてご案内しております。
詳細は江尻建築までご連絡下さい。


文・写真:小松理虔(ヘキレキ舎

 

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