今回紹介する家は基本的には2階建てですが、なんと「5つ」もの階層が存在します。スキップフロアがこれでもかと登場する今回のお宅。そもそもなぜ階層が必要だったのかといえば、お施主さまご夫婦、お子さま、旦那さまのお父さま、そして旦那さまのおじいさまと、4世代が1つ屋根の下で暮らす事になったからでした。年代や世代が違えば住まいに求めるものは違うもの。その違いをうまく差別化しながら、1軒の家のなかにどう落としていくのか。また出来るだけ収納がほしいという要望も。その解を、小森工務店の小森測さんは「多層化」に求めました。
では早速家のなかをご案内します。
●1階層目
1階層目(1階)には、4世代のコミュニティの場となるリビング、キッチンやお風呂など家族みんなが使う機能を集約。また、そこからの移動が短くて済むようにと、お父さま、おじいさまの和室をそれぞれ作りました。カラマツ材のフローリング、小森さんオリジナルブレンドの漆喰壁など、自然素材が光るフロアになっています。
5階層には含めていませんが、1階のリビングは低めのスキップフロアで和室も作られており、段差はそのまま椅子として使える上、引き出しになっています。「収納代わりになる」というのも、スキップフロアの大事な要素です。

フローリングにはカラマツ。天井にはスギの無節の羽目板を。収納などの造作関係はすべて大工さんの手仕事です。家事がしやすいようにパントリーから小上がりの和室へととぐるぐる回遊できる動線になっています。

こちらは施主のおじいさまの和室。同スペックの和室がさらにもう1つあり、そちらにはお父さまが住まわれます。台所やお風呂からも近く、最短の移動距離で快適な生活ができます。正面の開口はスキップフロア下収納。

家族全員が使うお風呂も1階に。壁面収納の「取っ手」など、細かなところも、小森工務店の小森測棟梁が1つひとつ作成。
●2階層目
2階層目が中2階の和室。1階の中央部に階段があり、そこから入ります。ここは、お客様がいらしたときに客間として使うことを想定しています。段差によって、私的な空間とお客様のための空間が区別されています。

真ん中右の階段を上がったところが2階層目の和室の「客間」となります。1階奥がお父様のお部屋。写真左がお風呂。右側には大収納のパントリー。

客間として使うので、壁紙の色を変えて、まるで旅館の客室のような雰囲気に。生活者とは少し目線もずれ、扉も閉まるのでお客様のプライバシーが守られるつくりになっています。
●3階層目&4階層目
階段を上がると3階層目、実際には「2階」にあたる場所です。ここからは、若い施主さまご夫婦とお子さんが生活するエリア。主寝室、子供室のほか、シャワールームと小さなミニキッチンも。また、5階層目の床下部分に作られた大容量の収納にもアクセスできます。
3階層目にもスキップフロアが設けられており、階段を上がると4階層目にアクセスできます。段差に畳を敷くことで椅子代わり使えます。テレビ台にも正対しているので、ここが若夫婦世帯の団欒の場になります。

施主さま夫婦とお子様の生活拠点となる2階リビング。奥にご夫婦の主寝室があります。階段をあがると4階層目のフロア。階段、畳下も無駄にせず収納に。

4階層目から見下ろす3階層目。左奥には、小さなキッチンスペースとシャワールームを作りました。ご夫婦の帰りが遅くても、下で眠るお父さま、おじいさまに迷惑がかかりません。写真左の大窓を開ければベランダです。

大きなベランダ。日当りもよいのでたっぷりと洗濯物を干せます。手すりの右側に見えている構造体は1階のリビングにあたるところ。外壁を区分して屋根の構造を分けているので、外側から見ても多層的に見え、ひときわ存在感のある外観になっています。まさに「小森節」の多層構造。


トイレも自然素材仕上げ(左)。1階から2階に上がってくる階段の上には小さな本棚を(右)。漆喰壁の風合いがとても柔らかく感じられます。本棚の上部の凹み部分には天窓を設置し、通風を促し家の中の気流を生み出します。湿気もむしむしした夏場の熱気もさようなら。
●5階層目
そして、4階層目から1段上がったところが5階層目。扉をつけて空間を仕切っています。こちらは旦那様の書斎として、あるいはお子さまの部屋としても使えるようになっています。驚くべきことに、この5階層目にはロフトがついており(これはもはや6階層目?)、横長の窓から見える町の風景も絶景。

これで5階層すべてをご覧頂きました。
これだけ階層を持ち込んだのは「世帯の生活リズムの違いを重視したから」と小森さん。「階層をずらすことで、空間の機能を分けることが狙いの1つですが、それぞれの暮らしの空間をごちゃ混ぜにせず、適度な距離感を設けることを意識しました。また、周囲が住宅地であることから、ご近所の目線がかぶらないよう階層をずらしています。視線が交差しないので、プライバシーを守ることも意識しました」
家のなかは、小森工務店さんの得意とする無垢材、珪藻土、漆喰など自然素材で出来ています。そもそもご主人が自然素材が好きで小森工務店さんの門を叩いたそう。自然の通風を促す電動式の天窓も4カ所に設置。採風や通風を意識しました。スキップフロアと天窓のおかげで、「家族の風通し」も促されます。

外壁の1階部分はカラマツのオスモ仕上げ。シンプルな無垢材の扉、ステンレス製の薄い庇。

1階玄関。右側には土間収納を。

手入れがしやすいようにと1階をカラマツ材、2階をガルバリウム鋼板で仕上げました。屋根の一番上に見えるのは5階層目のロフトの屋根。長めに出した軒のおかげで、どっしりと重厚感あるデザインに。